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こんな世界が愛しくなる前に

聖剣エクスカリバーをその手に抱える世界に終焉をもたらすもの、逆さメイドの前に深淵の闇をまといし邪神が世界を救うべく立ちはだかった。


全てのステータスをカンストさせた逆さメイドとはいえど、ほかのNPCやプレイヤー達が集めたブラッドによって限界まで強化された邪神の前に苦戦を強いられていた。


上下左右、四方八方から放たれる邪神の暗黒魔法を逆さメイドはただひたすらにかわし続けることを強いられていた。


邪神の暗黒魔法によってドス黒い霧のようなものに包まれたマサラを遠巻きに見ていたゴブリー達もその次元が違う戦いを固唾を飲んで見守っていた。


「あれがユーキの言っていた邪神なのか…」


悍しいほどに禍々しい瘴気を放つその威圧的な邪神の存在は遠くにいるゴブリー達にも感じることが出来た。


「確かにあれならば…この世界を逆さメイドから救えるかもしれない」


だが、その禍々しい存在に反して、彼らが邪神を見る瞳は期待に満ちたものだった。


「邪神だろうがなんだろうが知らないけど…お願いだ、どうか世界を…そして僕らの恩人である逆さメイドを救ってくれ!!」


そんなゴブリーの想いが次第に周りへと伝染し、いつしか誰もがその禍々しい邪神に逆さメイドごと、『世界を救え』と願った。










怒り狂ったように吹き荒れる暗黒の嵐の中で、逆さメイドはもがき足掻いていた。


「どうだ!?田中!!。これが俺たちの力だ!!」


邪神のそばでそんな逆さメイドの抵抗を見ていたユーキは逆さメイドに聞こえるようにそんなことを叫んだ。


ユーキの言葉に答えるほど余裕はないのか、逆さメイドは何も言うことなく険しい顔をして、邪神の攻撃をかわしていた。


そんな話す余裕もない逆さメイドにユーキは一方的に話しかけた。


「なぁ!?どうしてお前はこの世界を終わらせようとしてるんだ!?」


そんな問いを投げかけるユーキへと逆さメイドは一瞬だけ視線を向けるが、すぐさま自分に襲いかかる世界を救う暗黒へと視線を戻した。


「このクソゲーに復讐するため?…違うだろ?。確かにこの世界はぶっ壊したいって思っちゃうくらいクソゲーだけど…お前は言うほどこの世界を恨んではないだろ!?」


そんなユーキの叫びに動揺したのか、一瞬だけ逆さメイドの動きが鈍くなり、邪神の放つ暗黒魔法に飲み込まれそうになるが、紙一重で危機を脱した。


「今まで辛いことなんて腐るほど遭遇してきた、不条理に涙を飲んだこともたくさんあった、投げ出したくなるほどの絶望なんて数え切れないほどあった。それでも…それでもお前は途方も無いほどの苦難を乗り越え涙を流した!自由に生きることを許されたことに笑ってみせた!!宴の夜に舞い上がるバカなプレイヤー達に笑みをこぼした!!!。こんなクソゲーでも、復讐なんかよりも価値があるものを見出したはずだ!!!!」


ユーキの必死の説得に逆さメイドの顔には若干の動揺が見られるが、それでも逆さメイドは邪神の放つ暗黒魔法を確実に対処していた。


「『世界に復讐するため』だぁ?。ウソつけ、お前はただ恐れただけなんだろ?。例えクソゲーでも、いつの日か復讐なんて馬鹿馬鹿しいって思えてしまうようになることを…どんなにクソゲーでも、生きたいって思えてしまうようになることを!!心の奥底では本当は…生きたいって思っているんだろう!!!…だったら一緒に探そうぜ!!俺たちが生きる方法を!!」


心境を見抜かれて動揺しているのか、動きのキレが悪くなった逆さメイドにすかさず邪神の暗黒魔法が襲いかかる。


やがて避けきれなくなった逆さメイドは抵抗虚しく見る見るうちに身体が暗黒へと飲み込まれ、とうとう身体がまるごと飲み込まれてしまった。


「どうだ、邪神は強いだろ?邪神をそこまで強くするために俺たちがどれだけ身体を張ったと思ってる?。その強さは俺たちが必死こいて集めて来た努力の結晶だ。沢山の人達が汗水、時には血や命を流して手に入れた意志の結果だ。邪神の強さは、俺たちの願いの証だ。お前を救うべく立ち上がった、多くの人達の想いの分、邪神は強くなる。その邪神の強さは、それだけ多くの人がお前に生きて欲しいと望んだという証明だ。こんなにも多くの人がお前のことを想っているんだ…だから田中…お前は生きろ」


邪神の放つ暗黒魔法に飲み込まれ、全く動かなくなった逆さメイドに向けてユーキは諭すようにそんなことを語った。


荒れ狂う嵐のように立ち上る暗黒の渦の中で、逆さメイドはユーキの言葉に耳を傾けていた。


光も音も、その他すべての感覚器官が閉ざされた暗闇の中で、逆さメイドは目を閉じてユーキの言ったことを考えていた。


邪神の強さは…きっとみんなから私へのメッセージなんだ…。


きっと、これだけ邪神を強くするためのブラッドを集めるのは、例えどんなに多くの人が協力していたとしても一筋縄では行かないはずだ。


ユーキの言った通り、沢山の人達が汗水を流して戦い、手に入れた弛まぬ努力の結晶なんだ。


こんなにも邪神が強くなってしまうほど多くの人達が精一杯頑張ってくれた。


自らに迫るリスクを覚悟して、私を救うためにこんなにも邪神を強くさせた。


皮肉なもんだ、ラスボスがこんなにも強いことが…こんなにも嬉しいだなんて…。


そんな目に見えない影の努力が、恥ずかしいほど嬉しくなる。


沢山の人の私への想いが、私の心を温かくさせる。こんなにも愛されていたんだって、うっかりと泣きそうになってしまう。


あぁ、本当に…バカばっかりだ。


だから…だからこそ…さっさと終わらせよう。




こんな世界が…愛しくなってしまう前に…。




邪神の暗黒魔法によって捕らえられ、何も見えない暗闇の中で逆さメイドはエクスカリバーを振り上げ、そして全力で振り払った。


逆さメイドから放たれた通常攻撃は取り巻く闇を振り払い、衝撃波となって邪神へと襲いかかり、邪神ごと全てを飲み込んだ。


レベル99、STR999の逆さメイドが放つその一撃は、神をも穿つ一撃。ありとあらゆるものを全て無に帰す不条理な一撃。


邪神が放つ邪悪なる暗黒も、邪神から溢れる禍々しい瘴気も、沢山の人がかき集めた努力の証も、逆さメイドを救ってという願いも…逆さメイドの攻撃はその全てを飲み込み、その全てを無に帰した。


かつて栄えていたマサラの国は、逆さメイドの侵略によりかつての面影も残らぬほどの焼け野原となり、無情な一撃で邪神をも打ち滅ぼした逆さメイドは静かに口を開いてこう言った。


「ゲーム…クリアだ」


こうして、クソゲーは静かにエンディングを迎えることとなった。

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