第94話 辞令式とリナとセドリックの関係
サイラスの言った通り、翌日にはセドリックとリナに辞令が出ていた。
さすがに幹部クラスの人事は国王陛下勅命になるので、主立った貴族の立ち会いの下、謁見の間で行われる。
リナは、学園を休んで参加していた。
(ていうか、そんな正式な行事なのに、辞令出るの早過ぎない?)
セドリックの推薦人はアボット侯爵。
辞令は予想通り『近衛騎士団副団長』
リナの推薦人はホールデン侯爵と宰相。
辞令は『騎士団司令官』
リナの推薦人は宰相だけだったんだけど、団長が自分の父親をねじ込んだらしい。
ちなみに、身内は推薦人になれないそうだ。
でも、これでリナはほぼ今まで通り、王宮内を動けるようになった。
騎士団司令官は、侯爵家と扱いが同等であるから。
リナは、とりあえずアボット侯爵にこの前の非礼を謝罪しようと思い、側に向かう。
「先日は、大変失礼な事をしてしまい、申し訳ありませんでした」
アボット候爵から、溜息付かれてしまった。
「学園の生徒は子ども扱い。長く王宮に出てないせいで、忘れてました。こちらこそ、大人げない態度で申し訳ない」
アボット侯爵は、昨日よりはかなり態度が軟化していた。
「宰相様とホールデン侯爵様には、ご推薦頂き、有難うございます」
「いえ」
宰相は横のホールデン侯を警戒してか、言葉少なめだ。
「いやいや。同じ派閥同士ではないですか。お役に立てるのであれば、名前などいくらでも使ってくれても、かまいませんぞ」
「派閥のことは……よく、分からないんですけど」
リナは、引きぎみに言う。やっぱり、ホールデン侯爵のこういうところは苦手だ。
「そうでしょうな。お嬢さんが、気にすることでは無い」
……相変わらずだなぁ。周囲に聞かせるような大声。
リナは一通り挨拶した後、ススッとセドリックの横に移動した。
「セドリック様。私、後で貴方に訊きたいことがあるんですけど」
「奇遇だな、俺もだよ。ちょっと、場所変えようか」
今回の辞令で、リナがもらった執務室が近いと言うことで、セドリックとリナは、そこで話すことになったのだけど。
「……で、この事態、説明してくれるんだろ?」
と、いきなりセドリックから言われてしまった。
(いや、こっちが聞きたいんですけどね)
「セドリック様の陰謀って聞きましたけど? 私の知らないところで、アボット侯爵様と取引したんですね」
「陰謀って、アボット侯復帰させたかったの、リナちゃんだろ? 俺が単独でした取引は、俺の推薦人ってだけ。こればっかりは親父に頼めないからな」
「え? じゃぁ」
「サイラスが言ってなかったか? 身分や立場に厳しいって」
「言ってました」
「あの人がいたら、騎士団の制服を着た子爵令嬢を、王宮内で好き勝手させないだろうからな。だから、辞令の話は宰相に頼んだんだけど……」
「でも、騎士団の指揮なんか出来ませんよ、私」
セドリックがカチンと来た感じでリナに詰め寄る。
「それでかよ。サイラスの口車にホイホイ乗りやがって、ったく。どうせ、2人で指揮すれば良いとか言われてO.K.出したんだろ?」
(どっかで、見てたのかな?)
「見なくても分かるからな。サイラスが速攻辞令出させたのは、俺が動く隙を与えたくなかったからだろうし。ホールデン侯まで、出してきやがって」
リナはさっきからセドリックにどんどん追い詰められている、って感じになっていた。
「この前、宰相や俺が言ったこと、理解してないだろう。それとも分かってて、取り込まれようとしてるのか?」
セドリックが本気で怒ってるのが、リナにもわかる。
(私、そんな風に思われてた? そんな、軽い感じに……)
リナは自分の手が震えてるのが分かった。
「セドリック様は、そんな風に思うのですか? 私が取り込まれたがってると」
なにか、現実味が無い。呆然とした感じでリナがセドリックに訊く。
リナの声が震えている。今にも泣きそうな感じで、心細そうな子どものようなリナが、そこにはいた。
セドリックは、しまったと思った。失敗した……と。
手でリナを制するような感じでセドリックが言った。
「いや……ごめん。思ってない。リナちゃんを疑ってるわけじゃないんだ。ちょっと、頭の整理させて……そんな顔させたいわけじゃ無くて……」
セドリックは自然な感じで、リナをこれ以上怯えさせないように、ゆっくり抱きしめた。
「ごめん。そうだよな……。いきなり司令官なんて出来るわけ無い。俺は一緒にいてやれなくなるし。身近で出来る奴を探すしか無くなるんだ。俺の所為せいなのに、ごめん」
リナもセドリックの背に手をまわす。
「リナちゃんの言動が大人っぽいから、つい錯覚しちゃうんだよな。まだ、こんなに子どもなのに」
(ここに来て、まさかの子ども扱い? 私、どんな顔してたの?)
「一度、サイラスには俺から話すよ。あいつの策だしな」
セドリックはごめんなって感じで、抱きしめたまま、リナの背中を撫でてくれてた。




