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第92話 アボット侯爵邸 帰りの馬車の中

 リナとセドリックは、交渉を成功させ、アボット侯爵家から帰宅するため馬車に乗っていた。


「いつまでブスくれてんだよ」

「別に?」

 進行方向に横同士で座ってるんだけど、リナは窓の方を向いて頬杖ついてた。

 交渉はセドリックに横取りされるし、最後は相手を納得させず脅してしまっている。内心は、セドリックに対しムカついてはいた。

 ただ、リナは、単にブスくれて窓を見ているわけではない。

 先ほどの交渉で気になった事を、セドリックにどうやって切り出そうか考えていた。


「悪かったよ、交渉中に横やり入れて。だけど、あれ、俺が入らなかったら決裂してたろ?」

 セドリックが言っていることにも、知らん顔してるリナに溜息が出た。

「俺に口出しされたくなかったら、相手を見て言い方変える事を覚えろよな」

 リナは、チラッとセドリックを見る。

 さっきから私の髪の先っぽの方を、クルクル指で巻いて遊んでるけど。


「アボット侯爵は、見た目ほど温厚じゃないんだよ。俺の親父ほど子どもに甘くも無いしな……。お前、あのままだったら殴られてたぞ。それが分かったから、クリフォードも椅子から立ち上がって止めようとしたんだ」

 リナも分かっていた。殴られそうになっていたことは……だけど。

 気になってたことは、他のこと。


「セドリック様。さっきのリーン・ポートが選んでるのがアラン様って話。利用しないで貰えますか?」

「は?」

 セドリックは、リナから全く違う話が出てきて、一瞬止まってしまった。

「セドリック様の前でアボット侯爵が、王太子殿下が不利になるような事を言ったこと自体が気になって……。すみません。交渉中だったのに」


「ああ。アボット侯爵が事前に確認取ってたじゃないか。俺はリナちゃんの運命に巻き込まれることを了承した時点で、リナちゃんと同じ責任を持っているんだよ。リナちゃんが言えないことは、俺も言えない。利用しようも無い」

(また、セドリックに責任だけ押しつけちゃったんだ)


「ごめんなさい」

「何が?」

 リナが謝るために振り向いたら。

 セドリックは手で持ったリナの髪に口付けてるところだった。


「セドリック様は、真面目な話しながら人の髪で何してるんです」

「真面目な話?」

(殴っていいかな、こいつ)

「ああ、責任の話ね。別に気にすることじゃない、今さらだ。それよりさ、せっかく、久々に二人きりなのに」

(そういえば、そうでした)

「近衛に行ってた時は、あんまり会えませんでしたもんね。もうすぐ、学園も始まるのに」

 リナはセドリックの方にもたれかかる。


「まぁ、学園の方はな。こっちから申請出すから、婚姻の準備って事で。リナちゃんもあんまり行かなくて良くなるけど……」

 セドリックが身じろぎした。

「あ……重かったですか?」

 やばいとリナは思う。最近人に会う度にケーキ食べてるから、太った?

「いや……本当に、警戒心無いよなって」

「警戒する必要あるんですか?」

(セドリックに?)

「……まだな。しててくれ」

 と言いながら、セドリックはリナの肩を抱いた。

 相変わらず、セドリックのこういう所はわからない、とリナは思うのだった。



 セドリックは、リナをポートフェン子爵家に送ったあと、また馬車でアボット侯爵家に戻る。

 リナの交渉とは別に、自分の交渉をするために……。

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