第91話 アボット侯爵邸 セドリックの交渉術
「ええ。先程お話しした結界のことと、中途半端な噂を鵜呑みにしているホールデン侯爵のことです」
「結界の話ですか」
アボット侯爵は少し意外そうな顔をする。ホールデン侯爵の話だけだろうと思っていたのかもしれない。
「外部の……海外の船が入り込める程に、結界が崩れてきています。前回、王子が二人もリーン・ポートに血を捧げているにもかかわらずにです。私はもう限界が来ているのだと、思います」
リナは、この話の続きをここでして良いのか、判断に迷ってた。
だけど、ここにいる3人は、その気になれば自力でもリナが知っている結論に、たどり着くだろう。
「そうですね。少し早過ぎるとは思います。あなたは、リーン・ポートが選ばなかった王太子殿下を王位に就けようと考えているのですね」
リナが迷っていた事を、アボット侯爵がズバッと言った。
第二王子派のセドリックがいるのに。
「他国の船が調査に来ているのに、内乱で戦力を削いでいる場合では無いと思います。例え、王太子殿下が死んでも、結界の維持はもう無理です。それよりは、戦力を増やすことを考えたり、政治的外交で他国と交渉して国交を結んで行く方が現実的だと思います」
リナは、アボット侯爵にというよりセドリックに聞かせるつもりで言ってしまった。
「全派閥がそう考えてくれると良いですがね」
アボット侯爵が溜息交じりにそう言った。
「アボット侯爵。現役復帰して頂けませんか?」
リナが言った途端、アボット侯爵の顔つきが厳しいものになった。
「現国王の側近が、次世代の抗争に関われなくなるのは……」
「もちろん、知っています。その上でのお願いです」
「王太子殿下を、見捨てろと?」
「ホールデン侯爵にもすぐに復帰して貰います。ですから……」
「出来もしないことを、言うものではありません」
「出来なくは……ないです。あの……父のリーン・ポートは、現国王に書き換えられてないのですよね」
「そうですね。書き換えられていたら、復帰しているでしょうから」
「ホールデン侯爵のところに交渉に行くときに、父を保護して頂けますか?」
「クランベリー公爵ですら出来ないでいる交渉を、本当に出来ると思っているのか!」
出来ることを前提に、要求を続けるリナに対し、アボット侯爵が怒る。
クリフォードが思わず椅子から立ち上がった。
それを制して、セドリックは口を開く。
「アボット侯爵。なにも丸腰で行こうというわけではなんですよ」
「クランベリー伯爵」
「リナはクランベリー公爵家当主と交渉して、騎士団と派閥貴族を抑えて貰うことと、協力者の保護を要請済みです。リナ自身、騎士団の指揮権を持ってます」
(セドリック?)
「そして、私の婚約者です。ホールデン侯爵家からしたら、同派閥。しかも、後ろには、クランベリー公爵家当主がいる。決して、無謀な交渉ではないのです」
ホールデン侯爵家との交渉の事を言いながら、セドリックはアボット侯爵にも脅しをかける。
断ったら、騎士団全体敵にまわすよ、って。
リナはこういうやり方は好きではないから、使ってこなかった。
だけど、今回は仕方無いのかも知れない。




