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第90話 アボット侯爵邸 リーン・ポートと結界維持

「では、事実の方から」

 リナは、コホンと咳を一つしてから話始めた。


「歴史書や国の資料を調べていけば、ある戦争を最後に一切の外交や戦争の記録が残されてないことがわかります。そのきっかけの戦争は、国の内乱の隙を突いて他国から攻められたもので、我が国の損害は尋常じゃ無かったと記録されてました。当時の魔道士たちが、魔法で戦った記録もあります。ここまでは、歴史書に載っていた事実です」

 リナが一呼吸置いて見ると、アボット侯爵はその通りですという感じで頷く。


「ここからは、完全に私(こども)の憶測(ざれごと)ですが。生き残った魔道士は、魔法物を後世に残そうとします。ただ、当時の王室に不満か恨みでもあったのでしょうね。もう二度とあのような戦争に巻き込まれないように、王位継承をしっかり立て直したにもかかわらず、混乱を招くよう呪いのようなものがかかってます。これも、歴史を紐解けば分かるのですが、ほとんどの王太子は国王に就任できてません。現国王の時も、上の王子二人が亡くなっています。私は、魔法の事はよく分からないのですが、国を覆うような強い結界を数百年張り続けるのは、例え核になる魔法物があっても不可能では無いでしょうか」


「そうかも知れないね。それで?」

「ですから、結界の維持に王族の血が必要だったのでは無いかと考えました。私(こども)の憶測(ざれごと)は以上です」

「ふむ……」

 アボット侯爵は、少し考え込んでリナに訊いてきた。


「ところで、セドリック・クランベリー伯爵はお嬢さんの婚約者で間違いなかったかね」

「え? あ……はい。間違いないです」

 リナは率直に答える。

「これから先の話は、彼をお嬢さんの運命に巻き込むことになるが、かまわんかね」

「かまいません。話を続けて下さい」

 間髪入れず、セドリックが返事をした。リナに何か言わせぬように。

(え…っと、私はかまうんですが)

 アボット候爵は、セドリックの言葉にうなずき。


「今、お嬢さんが話したことに訂正するところは無いですよ。全て事実です」

 クリフォードとセドリックは、神妙な顔になっていた。

 この話、2人は初めてのハズである。

 ショックを受けてるかも知れない、とリナは思った。


「お嬢さんは、書庫の書物が読めるのですね。少し待っててください」

 アボット候爵は席を立って、部屋を出て行った。


「ごめんなさい。2人とも、こんな話聞かせて……」

「あやまるな」

 セドリックが言う。

「そうですね。貴女が謝ることではありません」

 クリフォードもいつもの余裕は無い。


 ほどなく、アボット侯爵は古い本を持ってやってきた。

「この本を王宮の書庫に返しておいてください」

「貴方が隠していたのですね」

 リナは溜息をついた。探しても無いはずだ。

「この本は、読める人間が皆無では無いですからね。混乱は避けたかったのです。リーン・ポートの事が隠されず、露骨に書かれているのはあの中では、この本しか無かったはずです」


「リーン・ポート?」

 セドリックがアボット侯爵に訊く。

「ええ。国王が生涯1度だけ生み出せる魔法物の名前ですよ。クランベリー伯爵。お嬢さんの首のネックレスを引きちぎってみますか?」

 え? って感じでリナの首元を見る。少しためらってからリナに言う。

「痛かったら、ごめんな」


 セドリックは、自分の左手でリナの首の後ろを支えて、右手でプチって鎖を切った。

 ネックレスはセドリックの手から粉になって消え。また、リナの首に戻ってくる。

「本人が死ぬまで離れないようになってるんですよ、それは。普通のネックレスでは無いと、理解して頂けましたか?」

「……はい」

 返事をしながら、セドリックは、まだ自分の手を見ていた。

(確かにねぇ、信じられ無いよね。自分でやったときも、ビックリだったよ)

「それで、お嬢さんはリーン・ポートの話だけをしに来たのでは無いでしょう」

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