第88話 アボット侯爵との交渉の段取り クリフォードとリナ
学園の春休み(?)も、ほとんど終わりに近い頃。
近衛の制服を着てリナが王宮内を歩いていたら、チョイチョイと呼ぶ仕草をする影が見えた。
それに気が付いたリナはクリフォードの方に、テテッと寄っていく。
「お久しぶりです。どうされました? クリフォード様」
「噂では聞いてましたが、ずいぶん、可愛らしい姿になってますね」
(どんな噂だ)
「そんなこと言うために。呼んだんですか?」
ぷぅっと頬を膨らましながら言うリナの姿が、ふてくされた子どもにしか見えないんだろう。
クリフォードは微笑ましいものを見るように笑って、仕事の顔に戻った。
「あ……いえ。失礼しました。例の件、やっと準備が整いました。日程とあちら側の条件です」
そう言いながら、リナに書類を渡してくれる。ここでは開けれないけど。
「条件?」
「あちらは、会談の条件としてセドリックの同行を求めてます」
リナは、怪訝そうな顔をした。
ベネディクト・アボット候爵の意図が読めない。
リーン・ポートの話を避けるつもりか。
それとも、けん制用にバカな子どもの振りしたのが徒となったか。
「クリフォード様は、なにか聞かれてますか?」
クリフォードの立場上、答えれないかも知れない、とリナは思うけど、一応訊いてみる。
「父とは、ほとんど会ってないのですよ。プライベートでは皆無です。今回の件もほとんど他人と同じ手続きを取ってたので……。有益な情報を持ち合わせて無くて済みません」
残念そうにいうクリフォードにリナは申し訳ない気持ちになって慌てて言う。
「あ、いえ。謝らないで下さい。こちらこそ、家庭事情を言わせてしまってすみません」
「リナ様は、私がウソをついてるとは、思わないのですか?」
(おや?)
「疑ったらきりが無いですからね。でも、仲間の言うことは信じますよ」
「仲間……ですか」
リナの方をジッと見て、クリフォードはその言葉を繰り返す。
「すみませんね、勝手に仲間にして。でも、私の心の中の問題なので、子どもの戯言と思ってスルーして下さい」
「いえ。ありごとうございます。リナ様」
あまり褒められたことじゃないのだろうとは思うけど、クリフォードは心のどこかが暖まる気がしてお礼を言った。
「どういたしまして?」
(おや、クリフォードの頬が少し赤い)
「それで、セドリック様の方には伝えてあるのですか?」
「あ、はい。既に伝えております。多分、今頃仕事を調整していると思いますが」
(なるほど、そうだよね。今、セドリックの部隊は一番忙しいハズだ。私も近衛の仕事明日までだし、準備しようかな)
まぁ、準備と言っても国王陛下の書簡くらいなのだけど……。




