第87話 アボット侯爵との交渉の段取り クリフォードとセドリック
クリフォードはやっとの思いで段取りを付けた書類を、リナに渡すべく整えて封筒に入れていた。
彼の執務室はすでに人払いをしている。
そこにノックだけはするけど、入室の許可も取らずセドリックが入ってくる。
「何の用だ? 俺、忙しいんだけど」
セドリックの部隊は諜報……。他の警備を担当する部隊よりは確かに忙しいだろう。だけど。
「リナ・ポートフェンの事なのだけどね」
セドリックが警戒して訊く。
「何の話だ?」
「話す前に確認したいのだが。君は、リナの事好きか?」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ、って顔にセドリックがなっている。
(それは、そうだろうな。私もこんなバカな質問を、セドリックにする日が来るとは、思わなかったよ)
「親父……アボット侯爵は今、クランベリー公爵家に出し抜かれたせいで、たいそうご立腹なんだよ」
溜息を付きながら、クリフォードは言った。
ああ、なるほど……とセドリックは思う。思うのだが……どうしようもない。
あの時の俺は、自分の感情に手一杯で、リナがアボット侯爵との会談を頼んでいたときに、介入出来なかった。
「リナの交渉の戦略は、クランベリー公爵には有効でもうちの親父には効かない。さっさと不敬罪でも何でも適用して、取り込んでしまうだろう。下手に抵抗したら、国王の書簡持っていても、国王代理という立場でも、関係無く現場処刑してしまうだろうしね。あの人は、現国王のことを認めていないから」
セドリックには、クリフォードが、なぜ自分にこの話をしているのか、真意を掴み損ねていた。
リナの命乞いを自分にしろというのか……それとも……。
「それで、セドリックはリナのこと好きなのかな?」
セドリックは警戒して答えれなかった。
「ああ、リナの方はわかりやすい。多分も何も本当にこの間、王宮の廊下で君に言った事が本音なんだろうね。アラン王子とクランベリー公爵との密約も気になることだし」
「親父とアランの密約?」
「ああ、知らなかったか。かなり厳重に人払いされたからね。私も、漏れ聞いた話程度だが。リナ・ポートフェンの所有権の話……だろう?まぁ、そんなこんなで、今とても危ないのだがね。うちに近付くの」
クリフォードは、書類の入った封筒をちらつかせる。
「だけど、間の悪いことに会談の段取りが付いた後に、その情報が入ったんだよ」
セドリックは、クリフォードに対する態度を改める。
「俺は、リナのこと好きですよ。アボット伯爵にはバレていたと、思っていましたが……」
セドリックはこの前、自分の前で跪いたアルフレッドの気持ちが分かる気がしていた。
(確かに、プライドなんか邪魔なだけだ)
セドリックは、その場で跪く。
「お願いします。リナ・ポートフェンを守って下さい。俺の身と引き替えで構いません」
クリフォードは、目の前で跪いているセドリックを見て驚いていた。
同時に溜息が出る。まだまだ、若いんだな……と。
「立ちなさい。セドリック・クランベリー伯爵」
セドリックは、素直に立つ。
「今の願いは聞かなかったことにするよ。自分で守ったらいい」
「は?」
「なんで、親父との会談の交渉に時間がかかったと思っているんだ。ほら、君の分の書類。リナには、親父からの条件って事にするんだから、口裏合わせろよ」
「ありがとうございます。アボット伯爵」
「今すぐやめてくれ。気持ち悪い」
セドリックはクリフォードから、書類を受け取りサッサと執務室を出て行った。




