第86話 王女殿下の婚約者 護衛の近衛騎士リナと騎士団長サイラス
護衛の本来の持ち場にリナは戻っていた。なぜか、サイラスも横に立っている。
「それで、俺はオールストンから何を謝られたんだ?」
サイラスから思い出したように訊かれた。
「え? それ訊きます?」
「リナ嬢が制したからあの場で訊かなかったんだ。言う義務があるだろう?」
「クランベリー公爵家当主から、正式な抗議文出てるから」
(噂には……ならないか。お互いデメリットにしかならない)
「抗議文? 何があった?」
オールストン隊長は、サイラスにリナがアランの私室に連れて行かれたことを、報告してないようだった。
「あくまでも、第三者目線からなんですが。アラン王子殿下から命令されて、私室に連れ込まれました」
「それは……また。冷静に言ってるところを見ると、何も無かったんだよな。それで、なんでクランベリー公爵家から抗議文が出るんだ? リナ嬢を育てるにしても、関係無いだろう」
(そりゃね。例え本当に何かあっても、仕事には関係無いからね)
「セドリック様の婚約者なんですよ、私」
リナは何でも無いことのように、しれっと言った。
「ふ~ん。それで抗議文か、なるほどねぇ」
サイラスは、何を考えてるか分からない顔になった。
「あの、団長。質問して良いですか?」
「部下としてなら良いぞ」
「この場合の抗議文ってそんなに重要なんですか?」
「俺に訊くか? それ」
リナの質問に、サイラスはあきれ顔だ。
「ごめんなさい」
「ったく、セドリックもちゃんと教えれば良いものを……。あのなぁ、この場合、王族から私室に連れて行かれるって事は、事実上、夜伽命令だ。その後、その王族がそいつを所有するつもりが無ければ、交渉次第では他の王族や家臣に下賜されることもあるって事だ。クランベリー公爵家当主からの抗議文は、お前の所有権の主張だよ。夜伽の事実はこの場合どうでも良いからな。……で? アラン王子の私室に他に誰かいたんじゃないか? アラン王子の策じゃないろう、どう考えても」
(どうしよう、藪突いちゃった)
「ごめんなさい。言えないです」
リナはぺこんと頭を下げる。
サイラスは、やれやれって感じで言う。
「部下として訊いたんだったな。仕事しな、じゃな」
リナの頭をポンポンって叩いて、サイラスは行ってしまった。




