第85話 王女殿下の婚約者 リナ達が離れたその後
本当にあの女はろくな事しないな……レイモンドは憤慨していた。
サイラスとリナが完全に行ってしまったのを確認してフイリッシアに気遣う言葉をかける。
「大丈夫でしたか? 王女殿下」
うっかり、抱き込んだままのフイリッシアをゆっくり離す。
まだ、レイモンドの腕にしがみついたままだ。
「もう大丈夫ですから」
レイモンドは自分から離れて欲しくて安心できる言葉を言う。このままでは、仲睦まじいと思われてしまうから。
フイリッシアは、泣きそうな顔でレイモンドを見て、うつむいた。
「迷惑なら、レイモンド様から手をふりほどいて下さい」
それが出来るくらいなら、とっくに……。と言うか、さっきも抱き込んでいない。
本当に、なんなんだあのリナ・ポートフェンという奴は。
せっかく自分の心を殺して、愛情の無い婚約者を演じてきたレイモンドの思惑を、一瞬にしてダメにしてしまった。
「王女殿下。今、僕の父は王太子殿下の暗殺を企んでます。成功すれば、あるいは未遂でも、一族郎党処刑されるかも知れません」
まだ、子どものフイリッシアにこんなこと聞かせるはずじゃ、なかったのに。
「そんなことに貴女が巻き込まれる事はない。離れて下さい」
所詮は親父が組んだ政略結婚だ。好きで一緒にいたわけじゃなければ、何も知らないとの言い訳は立つ。
フイリッシアは更にギュッとレイモンドの腕を抱きしめた。
「王女殿下。僕は貴女を巻き込みたくない。不幸にしたくないんだ」
本音で言った。貴女を処刑台まで連れて行きたくない。
「今以上の不幸なんてありませんわ」
(え?)
「貴方の側にいられない以上の不幸なんて、私は知らない」
もうフイリッシアはレイモンドの腕にしがみついて離れない方針らしい。
完敗だ。レイモンドは覚悟を決めた。
しがみついているフイリッシアの手をやんわり離す。
フイリッシアの瞳に絶望の色が見えた。
レイモンドはそのままフイリッシアの前に跪いて、手の甲にキスをする。
「フイリッシア。愛してます。僕と一緒に同じ道を歩いて頂けますか?」
レイモンドは、自分の目をまっすぐ見つめてくるフイリッシアを、愛しいと思う。
(いままで、どんなに冷たくしても好きでいてくれた。だから、巻き込みたくなかった。なのに、僕は……)
「僕は、貴女を幸せにする努力をおしまないと誓う。だけど、結果的に誰よりも不幸にしてしまうかもしれない。それでも、もう僕からこの手を離すことは出来無いんだ」
だから、貴女から手を離して……。
「レイモンド様といられるのなら、どこでも……。どこまでも、ついていきますわ」
涙の溜まった瞳でフイリッシアが笑うから。
もう何も言う事が出来ず、レイモンドはフイリッシアを抱きしめるしかなかった。




