第82話 アランとクランベリー公爵の密約と我儘姫
王宮の中、アラン王子殿下の私室。
クランベリー公爵の抗議文に目を通していたら、本人が到着したようだった。
アランは第二王子で特に公務などしていないので、執務室は持っていない。
なので、私室で抗議を受けることにした。
室内にいた近衛を入り口の外に配置し直し、侍女はお茶を入れさせた後、下がらせた。
タダでさえ、怖い人だ。侍女を怯えさせることも無いと思ったからだ。
「アラン王子殿下には、ご機嫌麗しく……」
「機嫌が悪いのは、あなたの方だよね。どうぞ座って」
取りあえず、アランは自分の正面のソファーを勧める。
クランベリー公爵は大人しく座った。
「まずは、事実関係を知りたいのですが、よろしいですかな? アラン王子殿下の部屋からリナ・ポートフェンが泣きながら出てきたと、報告を受けておりますが」
「それは、事実だよ。実際、リナを泣かせてしまったから」
「ほう?」
相変わらずだな、クランベリー公も。
今さら、殺気混ぜられてもなんとも思わない。ただもう、死ねないけど。
リナと約束したから。
「リナは、何て?」
「何も無かったと言ってますよ」
「では、僕もそれでいいよ」
「どういう意味ですかな?」
「あなたと僕の間で、この問答は無意味だと言ってるんだよ。お互い信じてないのだから。それより、今後のことを話そうか。リナの所有権の話とか」
アラン王子殿下とクランベリー公爵の密約の話である。
数日間は、平和に過ごせてたとリナは思う。
アランの私室に行った次の日から、普通に朝から勤務させて貰った。
オールストン隊長は、あの日の事には極力ふれない方針でいくことにしたようだった。
アランの方はクランベリー公の抗議とか抗議文とかきて大変だったようだけど、リナには関係の無い話だった。
「ん~もう。これじゃ無いって言ってるでしょう? リボンなんて子どもっぽいもの」
フイリッシアは、朝の支度が気に入らないようで、侍女たちに向かって、ずっとカンシャクをまわしている。
ドレス選びの時は、さすがに近衛は入れないので、分からないのだが時間がかかっていたので、こんな調子だったのだろう。
(ジークフリートルートのエイリーンが人格者だっだので油断してたが、こっちはガチのワガママ王女だったか……)
リナは、横に立っているオールストン隊長に小声で訊いてみる。
「今日、何かあるんですか?」
「仕事中の私語は厳禁だ」
「すみません」
(怒られちゃった)
「今日、王女様の婚約者殿がいらっしゃる」
(へ?)
オールストン隊長の方を向いたら、知らん顔で前を向いてた。
(どうせ、子どもなんだから、子どもっぽくしてても良いんじゃ無いかと思うけど)
ふむ。ドレスはちょっと背伸びしちゃってるから。
リナは、スッと前に出た。侍女に耳打ちしてから。
「フイリッシア様。どうなさいました? せっかくの可愛らしいお顔が台無しですよ」
「ふん。お兄様とお楽しみだったんじゃないの?」
(……意味分かって言ってるのかな? ってか、あれ以来アランとは会えてないからね)
「お姫様が、ずいぶんと下世話な言葉を知っていらっしゃる」
リナはスルーして、侍女と二人で作業に入る。
リボンを髪に編み込みルーズに上げて仕上げる。
好きな人のために、頑張って背伸びした女の子の完成。
フイリッシアは、鏡の中の自分に驚いてるようだった。
なるほどねとリナは思った。
あっちはどうか知らないが、フイリッシアの方はレイモンドの事好きなんだ。
「とても良くお似合いですよ。これなら、婚約者様にも気に入って頂けるでしょう」
「……所詮、政略結婚だもの」
(ありゃ、うつむいてしまった。相手がサイラスだったら、例え好きで無くても自分の婚約者にこんな顔させないだろうに。レイモンドの奴、何やってんだ)
「しゃんと、顔をお上げください。せっかく可愛らしいのにもったいない」
「あなた、生意気だわ」
「気に入らないなら、一言『不快だわ。あなたなんていらない』と言えば良いのですよ。私の家は、子爵家です。あなたの一言で、簡単に吹き飛ぶ命なのですから」
そう、ここの侍女たちも大差ない。
子爵か男爵の娘たちだ。
かんしゃくで済んでるうちは良いけど、うっかり言葉選びを間違えたら、本気で怒ったように周りから見えたら。
処刑が待ってる。
「……ごめんなさい」
(あれ? 謝った。っていうか、誰もそういうこと教えてなかったんかい)
「あの……付いてきてくれるかしら」
「護衛ですので、フイリッシア様が行かれるところでしたら喜んでお供致しますよ」
(うん……なんとなくを分かったよ。フイリッシアは、怖いんだ。この先、レイモンドと歩いてく未来が)
それで、周りに当たり散らしてるってことだったんだ。
リナはオールストン隊長の横に戻った。完全に騎士の仕事から逸脱してたので怒られるかと思ったけど、スルーされてしまった。




