第81話 宰相様とセドリックとリナ
そんな遣り取りをしていたから、リナはアランの部屋から退出するときに、自分がどうやって部屋に連れて行かれたのかすっかり忘れてしまっていた。
だから廊下に出るのにハンカチで涙を拭いたまま、出てきてしまったのだ。
リナがフッと顔を上げて廊下を見たら、アランの私室から少し離れたところにオールストン隊長と宰相が立っていた。
リナの泣き腫らした顔を見て、オールストン隊長は痛ましげにリナを見たけど、宰相は……。
(って言うか、なんでいるの?)
「オールストン隊長。とりあえず、こちらで引き取って良いでしょうか?」
宰相が、隊長に言う。
「はい。すみません。宰相閣下」
オールストン隊長は、宰相に対して深々とお辞儀している。
そうしてリナの方を向いて。
「すまなかった。庇ってやれなくて……。その、明日からの勤務は」
「え……と、朝から……ですよね」
泣きすぎて、リナの声は掠れてるけど、明日には治るだろう。
(折角だから、近衛の現場も知っておきたいし)
「いや、休んでもかまわないが……」
オールストン隊長がリナの態度に戸惑っているけど、休んでたら、学園の新学期始まってしまう。
(訓練はまだしも、近衛の仕事は学園と両立できないのに)
「大丈夫です、行きます」
泣いてブチ腫れた目は、明日までに何とかします。
オールストン隊長と別れて、宰相とリナは執務室に入っていった。
中でセドリックが待っていた。
「それで、俺はアランと決闘でもすれば良いのかな?」
半分笑いながら、言っているけど。
「ジークフリート様もいました。分かってて何言ってるのかなぁ~って、感じなんですけど」
リナのところにセドリックが近付いてきた。泣いて赤くなってる目尻を優しく指でさわられてる。
「何、泣かされてきてるんだよ」
「だって……アラン様が簡単に自分の命使って良いなんて言うから。こっちは、2人とも助けたくて頑張ってるのに……」
宰相がぬれタオルを持って来てくれて、リナに渡してくれる。
「泣いた理由は分かりましたが、リナ様。アラン王子にどうやって連れて行かれたか覚えてますか?」
「どうって……あっ」
(すっかり忘れてた)
「どこかで誤解を解かないと……オールストンが罪悪感でどうにかなりますよ」
「普通にいい人ですものね。でも、誤解を解くのは無理……かも」
だって、とリナは思う。ジークフリートがいたと言わないと誤解は解けない。アラン側の過激派に言うのは無理だ。
「まぁ、賢明だな。ほったらかしで良いよ。大人なんだし、何かあったら敵になるんだし」
「セドリック様。アラン様と繋ぎとれないの?」
「今は無理かな。元々、アランの周りは過激派ばかりだ。学園内ならまだしも、王宮じゃ、ろくに話も出来ない。まぁ、リナはしばらくアランの私室に出入り出来るんじゃない?」
「なんで?」
「オールストンの罪悪感の意味分かってる? リナちゃんが泣きはらした顔で出てきた所為で、無理矢理お相手させられたって思われてるぜ」
「あ~それで、ですか」
「俺は面白くないけど……」
リナは、セドリックの胸のところにコトンと頭を押しつける。
「リナ様。ここ、私の執務室なんですけどね。そういうのは、私室でして下さい」
「イヤです。ここが一番安全なんで……。それで、連絡役したらいいんですね」
セドリックはリナから濡れタオルを取って、顔を拭いてあげる。
鏡が無いところだし、リナはちゃんと拭けてない。
「う~ん。どっちでもいいや。もうすぐ新学期だし。後、今回の件は、親父から正式な抗議と抗議文が出るから」
「なんで?」
「うちのって主張しとかないと、取られるからね。サイラス・ホールデンに」
「取られるって、何を?」
「リナちゃんだよ」
「争奪戦になると言ったのを覚えてませんか? 立場を明確にしないと揉みくちゃにされると」
宰相が割り込んできた。そういえば、宰相と父がそんな話してたっけ。
そんな1年近くも前の話、覚えてないとリナは思った。
「弟のレイモンド・ホールデンの婚約者は、アランの妹、フイリッシアだよ。つまり、リナちゃんが護衛してるときにも遊びに行く口実があるんだ」
リナは、キュッとセドリックにしがみついた。




