第80話 アランの私室にて 王子たちの後悔
「ジークフリート様には、必ず国王になって貰わなければならないんです。史実からも分かると思うのですが、王太子の国王就任率は低いです。本当に何か呪いでもかかっているかのように……」
リーン・ポートの事は、まだこの2人には言えない。だから、その部分はぼかして話していた。
「現国王の時も政権争いが起き、原因となった貴族、一族郎党処刑されています。ところで今、海外からの船が紛れ込んでいるのは、ご存じですか」
「ああ。その件についてはこちらにも正式に報告が上がって来ている」
リナの話を受けて、ジークフリートが言う。
「今後、本格的にこういうことが増えてきたときに、王位継承時のゴタゴタで国力を減らしていたら、国の存続が危ぶまれます。ですから、代々王太子がスムーズに就任出来るようにしていきたいのです」
「リナは、派閥を1つにまとめたいって言ってるんだね」
「いいえ。派閥を潰したいと思っているわけではありません」
リナは、権力の一点集中が独裁国家を生む土壌になることを、前の世界の歴史で学んでいた。
「それって、ケンカ売る必要あるの?」
アランが訊いてくる。
「ホールデン侯爵家は今、この国で一番の勢力だと聞いてます」
「そうだね」
「そのような強い勢力の当主が、弱い立場の人間の話をきいてくれるでしょうか? 私で無くとも、他の派閥の人間の話でも……」
「聞かないだろうね。というか、聞いてたら第二王子派は二分してない」
「そこまで言うのなら勝算はあると思うけど。失敗したら、リナが一番危ないんじゃない?」
アランが心配そうに訊いてきた。そうなんだけどね、とリナは思うけど、王子たちには言えない。
「僕の命、使う?」
唐突に、アランが言う。
僕の命でリナが助かるなら……危ない目に遭わなくてすむのなら、それで良い。
リナが死んでしまうより、ずっと良い。とアランは本気でそう考えていた。
「だって、僕が死んだらホールデン侯はジークを狙う必要無くなるよ」
リナの方はと言うと、まるで道具を使うように命を差し出すアランにショックを受けていた。
「ダメです。それじゃ意味が無い。20年前の恨みで生きている人間にそれやっちゃぁ、ダメで……」
(違う。そんなことを言いたいんじゃない。私はそんなことの為に……)
パタパタパタ…こぼれ落ちる水滴が見える。リナは自分でも気付かないうちに涙を流していた。
「リ……リナ?」
「リナ嬢?」
2人が慌ててるのが見える。
気が付いたらリナは、アランから優しく抱きしめられていた。
僕の所為? どうしよう。どうしたら。リナを抱きしめながら、アランは焦ってしまっていた。
途方に暮れて、ジークフリートを見る。
ジークフリートは、アランの腕の中にいるリナの頭を優しく撫でてあげた。
リナは泣きながら、一生懸命言う。
「違う。私、誰も死なせたくなくて。2人とも助ける為に」
(助けたくて頑張ってるのに。死なせるために動いてるわけじゃ無いのに)
「なんで……そんな、簡単に……た……立場とか……身分とか」
(そんなものに縛られて……)
「死ぬのが、怖くないはず……ないでしょう? 嫌です。死なせたくない、もう誰も。何のためにこんな……死なせるつもりなら、最初から動いて……ません」
しゃくり上げながら言葉を紡いでるリナをなだめながら、ジークフリートは考える。
リナに死ぬ怖さを教えてしまったのは自分なのだと……。感情にまかせ、斬り殺そうとした。
あの時リナが、怖くなかったはずは無い。
今さらながら、自分はなんてことをしてしまったんだろうと思った。
ジークフリートは、アランと目配せをする。
アランもまた、死ぬのは怖いことなんだと思い直す。
だけど、自分たちよりもリナがそんなところにいる方が余程怖い、と思ってしまうのは許して欲しい。
『もう二度と死ぬことを考えない』とは誓うけど。
「でもね。それはリナも……だよ」
「そうそう。リナ嬢も約束してくれないと」
「大丈夫。最初から死ぬ気なんかないから」
同じようにリナにも、誓わせた。
泣き顔は変だから見ないでとリナから言われるけど、充分可愛いと王子たちは思う。
リナは、自分も死なないと誓いながら、それでも保険はかけるけどね、と思っていた。




