第79話 アランの私室にて
とりあえずフイリッシアが赤くなっている内にと、アランがリナの側に来た。
「君、本当に面白いよね。とりあえず僕の部屋に行こうか。確かめたいこともあるし」
アランの声に変な甘さが混じっている。アランらしくない、執拗なお誘い。
ああ、そうかとリナは思う。アランは、情報が欲しいんだ。セドリックと接触出来なくなって、情報が入ってないだろうから。
でもそういう誘い方って、変な風に取られるんじゃないの?
「命令だよ」
アランの指がリナの唇をなぞる。まるで、キスを誘うように……。
(わざとそういう風に取られるようにしているのか。なるほど、それじゃ)
リナは、少しおびえを含んだ目でオールストン隊長を見た。
(リナ……それ、逆効果だから)
「アラン王子殿下。私の部下です。それ以上は」
「なに? 逆らうの?」
リナはまずいと思った。てっきり、アランの命令なら差し出すと思っていたから。
「隊長。私は大丈夫です。アラン王子殿下、命令に従います」
リナはアランの方を見る。アランは少しホッとした顔をしてたけど、リナはまだ怯えている演技を続けていた。
(本当に演技だよね。その怯え……)
「そう。それじゃぁ、オールストン。この子連れて行くね。僕の護衛も置いていくから後の指示よろしく」
「殿下。護衛は」
「ここに連れてきたって事は、この子も護衛できるんだろ? 今日の僕の護衛はこの子で充分。じゃぁね」
アランはリナの手をそっと繋いで、部屋を出て行った。
「いい人ですね、オールストン隊長」
「あれでも、過激派だから。気を許さないで。ここが僕の私室だよ」
シンプルだけど、質の良いお部屋。侍女を含め人払いは済ませてるようだった。
ジークフリートが座ってお茶してるから。
「久しぶりだね。リナ嬢」
「お久しぶりです。ジークフリート様」
リナはにこやかに挨拶をした。
「今日はまたずいぶんと可愛らしい格好になってるね。何やってるのかな? 君は」
ジークフリートは、リナの方にやってきて両手でリナの手を包み、手のひらを見る。
「剣、使えるようになったんだね」
なんだか、少し切なそうにジークフリートが言う。
「あ……いえ。まだまだです。今、訓練中断してますし」
「で、なんで騎士団の新人やってるんだよ。養成学校も出てないのに。ものすごい特例だよね。しかも近衛なんて、順調にいっても後10年はなれないだろ?」
アランもなんだか不満げに言ってくる。こんな風に言うアランも珍しい。
「あ……と、アラン様。その質問に答える前に、ジークフリート様に謝りたいです」
「なに? 心当たりは無いけど」
「ジークフリート様が用意して下さった、逃げ道。使えなくなりました」
「どうして? どこかに取り込まれそうになってるのなら」
「私の今の肩書きは、『司令官見習い』です。正式に辞令が出てます」
「「は?」」
ジークフリートもアランも、驚きすぎて一瞬固まった。
「内部事情を知りたくて、各部署の新人やってるって感じです。まさか、幹部候補の肩書きがある人間を側室には出来無いでしょ?」
「クランベリー公か。やられたな」
「ああ。まさか、こうくるとは……」
(お~い。王子様たち、話聞いてくれ)
「交渉の結果なんで、こっちにも収穫はあるんです」
「どんな? っていうか、すごいな。交渉したんだ……」
ジークフリートは未だにクランベリー公爵の許しを得ていない。
「私が動くときに、近衛を含めた騎士団と主立った貴族の抑え込みとの交換条件なんで」
「……あんまり、聞きたくないけど。聞いて良いかな?」
ジークフリートが恐る恐る訊いてくる。
「何のために?」
「え? ホールデン侯爵家にケンカ売るため?」
王子たち2人とも、聞きたくなかったとばかりに、頭抱えた。




