第76話 リナちゃんは下町に行きたい 結婚は、好きな人としたいんです
王宮に着いて、軽く明日の打ち合わせをしてから、2人と別れた。
セドリックは、王宮奥に用意して貰ったリナの部屋まで護衛をしている。
馬車での、不機嫌な感じは消え、もう既に何を考えているのかわからない感じに、セドリックはなっていた。
「今日は、心配かけて本当にすみませんでした」
リナは立ち止まって、セドリックに謝る。
「別に……。無事だったんだから良いんじゃない? 部屋までは、ちゃんと護衛するよ」
態度が素っ気ない。リナは、セドリックの服の裾をギュッとつかんだ。
「なに?」
セドリックはリナの方をじっとみる、なんの感情も持ってないみたいに。
「ごめんなさい」
「意味ないから、良いよ」
本当に意味が無いとセドリックは思う。リナは分かっていないんだから。
「許さないって……こと?」
「何に対して謝ってるんだよ。俺は、何を許せば良いの? 分かってないなら意味が無いだろう?」
セドリックは、静かに言いつのる。
そっか、そもそも論なんだ……これはとリナは思う。
そもそも、単なる政略結婚なら、この謝罪に意味は無い。
許すも何も、セドリックが怒る理由すら無い。
あんな風に、リナが婚約を条件に交渉を進めてしまったから……。
(あの、みっともない涙の理由なんぞ知られたくなかったけど、自業自得だ)
「セドリック様。リネハン伯事件の後、私はセドリック様に見捨てられるのが一番怖かったんです」
リナは、セドリックの顔が怖くて見れなかった。
「見捨てられたと思った瞬間、足下が崩れ落ちた気がして……涙が出ました。今も、同じです。私がしんどくても頑張れるのは、貴方が見捨てないって言ってくれたから……。セドリック様には、意味の無い謝罪かも知れませんが、私には意味があるんです」
セドリックは、戸惑ってリナに訊いてみる。
「俺のこと、好きって言ってるように聞こえるけど……」
「先日の騎士団長の大爆笑の原因は『結婚は、好きな人としたい』って言ったことです」
「っつ」
セドリックは、自分の顔が熱いのに気付く。もう、諦めていたのに。
リナの方を見たら、リナの顔も真っ赤だ。
「は……はは。なんだ、そっか……。俺、ちゃんと好かれてたんだ」
セドリックが思わず呟いたそのつぶやきに。
何? それ……と、リナは思ってしまった。
「政略結婚だから仕方無いと思ってるけど。リナちゃん、俺のことなんとも思っていないって態度だったから……。俺は、もう諦めようと思ってたんだ。好きになっても、仕方無いって。交渉に使って良いって言ったのも俺だしな」
セドリックは、ふぅ~って、息を吐いて言う。
「悪かった。仕事に支障きたしたな。リナちゃんがどんな風になっても見捨てたりしないから安心して。俺、リナちゃんのこと好きだよ」
セドリックは、なにか吹っ切れたように、にっこり笑ってリナに言った。
「なんか、すごくウソっぽいんですが」
(その態度で信じろと? それとも遠回しに、所詮政略結婚だよって言ってる?)
そう思ってると、セドリックはバリバリ頭を掻き、溜息をついた。
「分からなくても良いけど。俺も男なんだよ。こんな風に言ってないと、今夜部屋に帰せなくなる。これ以上、突つつくな」
(あ……はい。了解っす)




