第75話 リナちゃんは下町に行きたい 謝罪して、仕事の話をしなくちゃね
リナは、この世界での初めてのお金を手にして、気分良くお店を出た。
お店を出たところに、今日リナと一緒に市場調査をするはずだった、お貴族ご一行様が……。
リナも貴族令嬢のハズなのだが。
とりあえず、お店からは離れることにした。
リナ達は乗っていた馬車を待たせているところまで歩いて行く。
今日は取りあえず皆、王宮泊まりにしていたので、王宮の馬車に4人で乗って帰ることにしていた。
馬車に乗ってすぐに、リナが皆に謝る。
治安があまり良くない下町で、女の子が一人行方不明になったら、皆がどんなに心配するか……リナは分かっていなかった。
しかも、護衛の仕事で来ている二人は、リナに何かあれば処罰の対象になってしまう。
「すみません。お腹すいて、お金無いので働いてました」
「本当に、心配したんですよ」
「セドリックを抑えるのに大変だったかな」
クリフォードとフィルは、リナが無事だったんだから、もういいよって感じになってくれたけど。
セドリックは、プイってそっぽ向いてる。
「それで、どうしていなくなったんですか?」
「お貴族様御一行では、まともな調査出来ないと思ったのですが。説得できないから、黙っていなくなるなんて子どもみたいな事して……」
「まぁ、子どもだしな。年齢的には」
フィルが言う。多分、セドリックに聞かせてるんだと、リナは思う。
「そうですね。16歳は充分子どもです。ねぇ、セドリック」
「許したら、こいつまた絶対同じ事する」
クリフォードが、ちょっと厳しい顔になった。
「それは本当に、子どもに対する怒りなんでしょうね」
セドリックは別に何でも無いって顔を向けてるけど……。
「あ……あの。クリフォード様、私は大丈夫ですから……すみません」
リナには、何の怒りだか分かってしまった。
とりあえず、仕事の話を済まそうと思う。
「これ、異国の宝石だそうです」
先程、あの男から貰ったものを見せた。
「今日、たまたま港に船が着いたって言ってました」
リナは、袋を隣に座っている、セドリックに渡した。
「緑の……何の石?」
「翡翠だと思います。透明度が高くて紫色が少し入っているので、少し高いものかも知れません」
高いと言っても、前の世界では100万円もしなかったはずだ。知らないだけかも知れないけど。
まぁ、安いものは数千円くらいで買える。
「どうしてそんなもの貰ってるんだよ」
セドリックが訊いてくる。いや、だから仕事モードになろうよ。
「分かりません。ただ、翡翠の価値はものによってピンキリなので。そしてこれが贋作だとしても、私には、見抜ける目がありません。どちらにしろ、こちらは明日宰相様に提出する予定でしたので、明日までセドリック様が管理して下さってかまいませんよ」
「何か耳打ちされてたようだか?」
フィルが聞いてくる。今のうちに不安要素は払拭してくれるようだ。
(セドリック、この二人の前でどんな態度でいたんだよ)
「お姫さんって言われました。料理を持って行ったときは、ボウズ扱いで、その直後、貴方方に出会っているので……。事実はここまでです」
リナは、自分の推測では無く、事実だけを言った。これだけで充分だろう。
「クリフォード様。明日、宰相様への報告時に出来れば、両団長にも同席して頂きたいのですが」
「手配はしますが。何か懸念材料でも?」
「はい。騎士団の力を借りることになるかも知れません。それと、ベネディクト・アボット候爵様にお会いしたいので、早急に場を設けて頂きたいのですが。その場合、他の護衛は連れて行けないので、クリフォード様にご同席頂けると助かります」
「私は、護衛にはならないと思いますが。その、立場的に」
クリフォードは、何かあった時にはリナを害する側にいる。だから、クリフォードはそう言ったのだが。
「私が、ご当主様にお会いするときの肩書きは『国王代理』です。国王からの書簡を携えての会談になります。そして話し合う内容は国家機密に関わるので、宰相クラス以上の方でないと参加できません」
リナは暗に、参加資格は次期宰相の座が決まってるクリフォードまでと、ほのめかす。
サイラス子飼いのフィルがこの場にいる以上、立場は明確にしないといけない。そして、これがリナに言えるギリギリだ。
「承知しました。できる限りはやく会談の場を設けましょう」
「ありがとうございます」
クリフォードは、意識を仕事モードに切り替えてスケジュールの確認に入っている。
とりあえず、仕事の話はここまでだ。
アボット侯爵に会うまでに、もう少し足場固めたかったけど。
そのうち、なんて悠長なこと言ってられなくなったな。




