第66話 騎士団隊長との引き合わせと騎士団長の困惑
クランベリー公爵との交渉成立の2日後。
約束通り、リナは自分が指揮する部隊の隊長たちと対面するために、クランベリー公爵の執務室に来ていた。
リナは学園の制服を着て来ていた。
司令官の制服も支給されていたのだが、それを着ると10歳前後の子どもにしか見えなかったのだ。
自分が幼いアバターを選んでしまった所為だとはいえ、さすがにあんまりだと思った。
「リナ嬢。そろそろ、部屋に入れてもかまわんかね」
クランベリー公爵……いや近衛騎士団長はリナに確認を取った。
「大丈夫です。お願いします」
リナも背筋を伸ばしてシャキッとする。
「失礼致します」
セドリックと他二名、それぞれに入室の挨拶をして入ってきた。
「こちらはリナ・ポートフェン殿だ。将来、近衛騎士団、騎士団双方の参謀を担う一員として、私が育てていきたいと思っている人物だ。まずは司令官見習いとして貴殿ら3部隊の有事時の指揮を任せたい。とはいえ、まだ王立学園の卒業まで1年を残す学生だ。色々教えてやって欲しい」
「はっ」
3人が騎士が礼を執った。
「それでは各自、自己紹介したまえ」
クランベリー団長が指示をする。
「近衛騎士団第3部隊隊長 アイザック・マーティンソンであります」
温厚そうな男性だ。赤毛の短髪で、体格はがっしりしているけど。
「騎士団第5部隊隊長 セドリック・クランベリーであります。自分の部隊は、諜報を主としております」
「騎士団第7部隊隊長 ルーカス・オルグレンであります。実戦部隊であります」
いかにも軍人って感じ。茶髪が日に焼けて金髪っぽくなっている。
さっ、リナ殿もと促されて。
リナは、ふぁっと微笑んだ。
「クラレンス・ポートフェンが娘、リナと申します。皆様よろしくお願いしますわ」
多分、令嬢としては完璧。司令官としては最悪の、令嬢としての礼をとった。わざとだよ。
セドリック以外は、微妙な顔したもんね。鬼上司の前だもの、よく頑張ったよ。
(でも、まぁ現場に行く口実は出来たかな?)
こういう組織は、上から見ても何も分からない。下に降りて見ないと。
何もしなくても、リーダーになれるタイプならまだしも……。
セドリックを残し、他の隊長は退出していった。
リナは、クランベリー近衛騎士団長に言う。
「私、ちょっと地に落ちますわ」
「ほう?」
「ほう? じゃぁ無いでしょう。あんな紹介して煽っておいて。実績も無いのに、自分のお気に入りだからって、感じにとれますよね」
(良く出来ましたって、顔してんじゃないやい)
「それに乗って、さらに煽ってなかったかね」
クランベリー近衛騎士団長は、笑いながら面白そうに言う。
(それは、そうなんだけどね。でもまぁ、お陰で覚悟が決まったよ)
「彼らと一緒に訓練できる段取りくんでもらえます?」
「お嬢さんには、ちと過酷じゃぁ無いかね」
突き落とした本人がよく言うとリナは思った。
「過酷だろうが地獄だろうが、這い上がってくるしか無いでしょう? このままじゃ、いつまで経っても使い物になりません」
「彼らがかね?」
「わたしが、です」
リナはクランベリー近衛団長を恨めしそうににらむ。
その遣り取りの間中、セドリックは口出ししなかった。
「わかった。段取りを付けよう。剣は扱った事無いのだったな。馬は乗れるかね」
「自在には乗れません。馬を駆けさせれる程度です」
全くの初心者じゃ無いけど、田舎は馬が無いと移動できないから。
ただ、その程度だ。騎士のように、自在に操って戦ったりは出来無い。
「承知した」
セドリックは、リナを自宅まで送るために一緒に退出した。
「リナちゃん。さすがにアレは、親父にも想定外だったと思うけどね」
「セドリック様だって、何も言わなかったじゃないですか」
「俺がリナちゃんの立場でも、同じ事言ってたからかな。言うこと聞いたふりだけされても困るもんな」
「うん。それでセドリック様、お願いがあるんですけど」
「言わなくても分かる、あんたの過保護部隊抑えとく」
過保護部隊……なるほどそんな名前付けてたんだ。笑える。
サイラスは、騎士団の隊長たちも使っている大部屋の執務室で、先程急ぎで来た書類を読んでいる。
すると第7部隊の隊長がリナ・ポートフェン司令官見習いとの対面から帰ってきた。
なんか、機嫌があまり良くないようだが。
「どうだった? 今度の上司殿は」
「あ……団長。いや、どうもこうも……。ご令嬢でしたよ」
苦笑いしている。
なんだか、よくわからんな。第7部隊隊長のルーカス・オルグレンは、人に対して滅多に不快感を表さないのだが……とサイラスは思う。
「そんなに、ひどいのか?」
「いえ。礼儀は完璧でしたよ。ただ、ご令嬢としては、ですけど」
「ああ。自分の立場が分かって無いってアレか……。まぁ、仕方ないんじゃないか? もともと、お飾りだろうし。適当に言うこと聞いて、機嫌とっておいてくれ。派閥のためだ」
「分かりました」
それにしても……なんなんだ、この命令書は。サイラスは困惑していた。
それはそうだろう、司令官見習いのはずのリナ・ポートフェンの剣の訓練の依頼。
そう、これは命令では無く依頼だ。
『剣の練習をさせてやってくれ』なんて……。
サイラスは、その命令書とも依頼書ともいえない書類を読み返しながら思う。
クランベリー近衛騎士団長。納得してないまま、こっちによこしたな。もう、いい加減にしてくれ。




