第58話 クランベリー公爵、こちらが被害者のリナ嬢です
執務室に入ると、ジークフリートとクランベリー公爵、セドリック、王太子派の近衛騎士が数名いた。
リナたちが入るのと同時に近衛騎士たちは礼をとり退出したけど。
セドリックはリナを見るなりうつむいた。
(何かやましいことあるの? それとも、わざと?)
ジークフリートが、クランベリー公爵にリナを紹介する。
「こちらが今回の被害者のリナ・ポートフェン嬢です」
(どんな紹介の仕方だ。わざとだ。こっちは、絶対、わざと!)
続いて、宰相が言う。
「セドリックの謹慎処分を今日この時までとします。明日から、任務に復帰するように。彼女の寛大さに感謝して下さいね。ご令嬢に不埒なマネをするなどとは、騎士としては風上にも置けませんから。二度とこのようなことが無いように」
「寛大な処置、ありがとうございます。今後、二度とこのようなことが無いよう、肝に銘じ精進致します」
セドリックが礼を執り、宰相とリナに向かってお礼と謝罪した。
クランベリー公爵は、リナの方にやってきて礼を執る。
「この度は、不肖の息子がとんだことをしでかしてしまって、申し訳ない」
近衛騎士団の団長をしているだけある。礼儀はきちんとしている。
親子だけあって、セドリックに似ているが精悍な感じがする。
「あ……いえ。もう済んだことです。それに、セドリック様には甘えてばかりで……きっと、子どもにするようにしてしまったんだと思います」
セドリックに、リナが甘えていたのは本当だ。
「そうですか。お嬢さんは不快に思ってないっと」
クランベリー公の顔がパッと明るくなる。
「ええ、まぁ」
ここで否定してしまっては、元も子もない……が、ますい方向にいってる気が。
「でも、社交界的には問題でしょうな。噂にでもなったら、縁談話も難しくなる」
(うっわ~。噂流す気満々でしょう~って言うか、これが狙いかぁ~。油断ならない、おっさんだな)
「そこで、うちのセドリックもまだ婚約者が決まって無くてね」
「クランベリー公爵。リナ嬢は私の側室候補ですよ」
ジークフリートが遮ってくれた。助かった気がしないけど。
「まだ、正式では無いですが、エイリーンとも仲が良いし。選択肢の一つとして、考えてもらっているところです」
ジークフリートはリナの手を取り、手の甲にキスをする。
無抵抗で受け入れてるので、この話をある程度受け入れていると、クランベリー公爵には取られるだろう。
だけど……と、リナは思う。
なんだろう。皆、子爵家の令嬢に対する態度じゃ無い。
学園に通っているジークフリートやセドリックが、身分を超えて親しくしてくれるのはわかるけど……。
この前のホールデン候爵といい、今回のクランベリー公爵といい。
この前の男子寮の廊下。
セドリックは、途中までは計算で、リナを後ろから抱きしめたと、ライラは言っていた。
「もしかしたら、私、派閥間で取り込まれようとしてる?」
周りが固まったのを感じて、顔を上げたら。
すぐ側のジークフリートから、ボソッと
「本当に側室にするからね」
と、低い声で言われてしまってリナは気が付いた。
(考えてることが、うっかり口から出てしまってたみたい。すまぬ、縁談の話だったよね。やばいやばい)
セドリックが吹き出して笑い出した。
「なっ、親父。リナちゃんってこんな子だから……」
すごいだろ? って言ってる。
笑いながら言われても、褒められてる気がしないよ。褒めてないのか。
「そう思った根拠を訊かせて頂けますかな?」
リナは、言ってもいいものだか……って考えてから、クランベリー公爵に、夜会であったことの、事実だけ話す。
自陣の派閥にいるのに素っ気ないアランの態度。
クレイグ・ホールデンの不自然なまでのフレンドリーさ。
そうして、謹慎のきっかけになったセドリックのらしからぬ行動。
そして、今の縁談話。
「デビュタントの時の印象は間違っていませんでしたな。ところで、本当に息子のところにきませんかな?」
「今は、第二王子派閥は無理ですね」
「今は……かね」
「今は、です。先は分かりませんが。ですから、噂を流すのはやめていてただけますか?」
「そうですなぁ。ただ、流さないと言ったとて貴女は信じますかな」
(なるほど、そうだね。でも……)
「セドリック様のお父様でしょう? それだけで信用できますわ」
迷うこと無く、きっぱり言った。
クランベリー公は、少し驚いた顔をしたがすぐに笑って。
「これは、裏切れませんな」
と言ってくれた。まぁ、お互いにとって些細なことだしね。




