第54話 リナとクリフォード・アボット
学園の馬車を使って王宮に着いたら、クリフォード・アボットが迎えに出ていた。
リナが馬車から降りるのを、クリフォードがエスコートしてくれる。
ドレスでは無く、学園の制服なので一人でも降りれるのだけれども。
王宮の奥にある、国王と宰相しか入れない書庫。
だから、そこへ行くのに宰相に付き添いを頼んでいたのだけど。
目の前で、完璧な礼を執られて、リナ・ポートフェンは戸惑っていた。
相手は侯爵家のご子息である。一方、こちらは子爵家の令嬢。
自分はどういう立ち位置で、クリフォードの前にいるのだろうと考えていた。
取りあえず本来の身分通り、リナは令嬢としての礼を尽くした。
「この度はクリフォード・アボット伯爵のお手を煩わせてしまい、大変恐縮しております」
「いえ、宰相閣下のご命令ですので、リナ様がお気にすることでは、ございません。さぁ、参りましょう」
お互い、型通りの挨拶を交わし、歩き出す。
先程、クリフォードが言ったのは、上司の命令通り動いてるので、あんたには関係無いよ、って事。
(私が攻略するのに安全な方から、繋ぎを取ってくれたってところか)
だけどクリフォード・アボットって夜会の時と全然印象が違うのだけれど……と言うか、完全に拒否されてる……と、リナは思う。
取りあえず、無言で付いていくしか無い。制服を着ているとはいえ、挨拶以外で身分の低い者から声をかけてはいけないだろう。
時々、騎士や文官、貴族の方々とすれ違うが、奥に向かうほど、怪訝そうな顔をされる。
上位貴族でも、何の肩書きも無い令嬢が入って良い場所では無くなってきてるから。
もう、ほとんど人がいなくなったところでクリフォードが口を開いた。
「リナ様。お訊きしてもよろしいでしょうか」
「何でしょう?」
リナは可愛らしく首を傾げて返事をした。
「これから向かう先は、ご令嬢が利用しても楽しくない場所だと思うのですが」
「そうなんですか?」
リナは、しれっと言う。
クリフォードの方は、少しイラッとしたようだった。
すぐに、立て直したようだけど。
こんな子どもに、国王の貴重な蔵書や資料が置いてある書庫を見せるなんて、とんでもないことだとクリフォードは思うのだが。
王太子殿下の婚約者を助けた功績だと言われたら仕方が無い。
あれだって、殆どデュークとセドリックの功績だろうにね。
だけど、リナ・ポートフェンとお近づきになれるチャンスではある。
普段は、セドリックがつきまとっているから。
「さぁ、着きましたよ」
2カ所ある鍵を開けて、重い扉をギギッと開ける。
少し湿気がする。小さな明かり取りの窓があるだけの薄暗い空間に本棚がある。少しほこりっぽく、古い本が沢山保管しているところの特有の少し甘い感じのにおいがする。
本の保管場所としてどうかは分からないが、この時代ならまずまずなのかも知れない。
クリフォードもリナと一緒に書庫に入ってきた。
一緒にいられると、とても困るとリナは思う。
リナは、ここに置いてある書物を全て読むことが出来る。
多分、学者でさえ読めない物も。
「ご案内頂きまして、ありがとうございます。夕刻に迎えに来て頂けたら嬉しいのですが」
リナはにこやかにクリフォードに告げたのだが、当然ながら、何言ってるんだこいつって顔された。
意外と表情が豊かなんだなとリナは思う。
「いえ、何かお役に立てることがあるかも知れません」
(宰相の考えが読めない。クリフォードの前で、読んで良いの? 子ども認定のままでは、確かに味方には出来ないでしょうけど)
クリフォードは、表面穏やかにリナのことを見ている。
とりあえず、リナは背表紙だけ確認して、お目当ての本の位置関係だけ把握することにする。
ここにある本は、持ち出すことはもちろん、写しを作ることも出来ない。
そして、ここにある本を読めて、尚且つ理解できる人間を『おバカな子ども』扱いはしないだろう。
読めるだけならまだしも、勉強できるだけでは、理解に遠く及ばないのだから。
ぐるっと1周まわってクリフォードの所に戻っていった。
「難しいですね。背表紙の文字すら読めませんでした」
リナは力なく笑って見せる。お目当ての本、5冊。位置確認できたし、今日のところはこれでいいかと思う。
「そうでしょうね。古語を使っているものはまだしも。もう、学者ですら解読不明のものもあります。国王陛下も、リナ様に実際見て頂けたら納得頂けると思ったのでしょう」
「国王陛下……?」
リナはキョトンとしてしまった。
「エイリーン様救出の恩賞で、ここの見学を願い出たのでは?」
(ああ、そう思われてたか。それで、あの質問……。どうせ、見せても分からないだろうからいいか、って扱いだろうと。じゃ、その案に乗ろう)
「こんなに難しい本ばかりだと思いませんでした。王宮が面白い本を隠し持ってるのだとばかり……」
「女性が好む物語なら何冊か私にも心当たりがあります。今度ご自宅に贈りましょうね」
クリフォードは、子どもに対する優しい笑顔に戻ってた。
「まぁ、嬉しいですわ。ありがとうございます」
リナは本当に感謝してた。こんなアホ丸出しの会話に付き合ってくれて。




