第53話 セドリックの計算とリナの焦りと……へたれ度?
アルフレッドの部屋を出て、セドリックと二人男子寮の廊下を歩く。
セドリックは、護衛として女子寮まで付いていくと言った。
「ごめんな。リナちゃん」
セドリックは、リナの後ろから軽く抱きしめてリナの肩に頭を置いた。
自分のミスの後処理をリナにさせてしまった、それに対する謝罪。
リナには言えないけどな。
「なんです? セドリック様」
「デュークの牢屋まで行って、処分を告げた令嬢って、リナちゃんだったんだろ?」
ああ、記録に残っているものを見たのだろう……とリナは思った。
セドリックなら見れるだろうから。それに、牢番にも口止めをしていない。
「そうですよ。それが国王の命令を覆す条件でしたから」
「ごめん。さっき、あんなこと言わせてしまって」
セドリックは、自分ですら辛かったことを、リナもしていた事を知った。
いや、それ以上に辛いことを……。
それを自分たちの前で言わせてしまって。
「別に、セドリック様の立場ならそうするでしょう? 最初からアル兄様を自陣営に欲しがっていたのだから。油断した私が悪いんです」
そう、リナの油断だ。
そういう意味でも、リナはセドリックを信用してしまっていた。
自分でも、チョロイとリナは思う。少し親しくなったら、優しくされたら……すぐに勘違いしてしまう。
それに、あの時のメンバーを、騙されても信用するって決めたのは自分なのだから、セドリックは悪くない。
「……デュークのこと、好きだった?」
(エイリーンと同じ事訊いてくるな。何? 私そんな風に見えてた?)
「友人だと思ってましたよ、私の方は。向こうにとっては、利用しやすいただの小娘だったかも知れませんが」
今となっては、真相は解らない。訊く相手は、もういないから。
「ふ~ん。答えてくれるんだ」
セドリックはいつもの感じでは無く。わざと子どもっぽい口調に変えた。
親父に取り込めと言われたのとは別。
リナをこれ以上辛い場所に、置いておけないと思ったから。
自分のところにリナが来てくれたら、それを理由に国王命令を正式にこちらにまわせる。
抱きしめたまま動かなくなったセドリックに、リナは焦っていた。
(どうした? セドリック。何かあったの? もしかして、壊れた)
まだ、頭も肩に乗せられたままだ。熱い息が、背中に当たる。
(だって、疲れたみたいに私に寄り掛かっている。大丈夫なの? これ……。もしかして、泣いてる?)
「どうしたの? セドリック様」
なるべく優しく。肩に乗っている頭をよしよしって撫でて……。
「何かあった?」
大人の……お姉さんのように訊いてみた。
横を向いたときに、頭に口が当たったかも知れない……。
(ごめん。髪に唾液付いちゃった。申し訳ない)
取りあえず、手で拭こうと思ったら。
突然、セドリックがガバッと跳ね起きた。
セドリックがリナの両肩持っていなかったら、リナは思いっきり前に倒れていただろう。
「お……まっ、なんで……いつもそんな」
「セドリック様?」
セドリックは、えらくうろたえてる。顔、真っ赤だ。
熱でもあるのかと、リナがセドリックの額に手を当てようとしたら。
逃げた。
(護衛は?)
「職務怠慢ですね。宰相に報告します」
学園から支給されたメイド服を違和感無く着こなし。どこからともなく現れる。
(忍者?)
「ライラ……いたの」
「護衛ですから」
ぴっちりしている。セドリックよりよっぽど……。
「セドリック様の……今の何?」
リナはライラに、解るはずが無いと思いつつ、一応訊いてみる。
「途中までは計算で……後は不意打ち食らって逃げたってところでしょうか。未熟ですね。彼も警戒対象に入れますか?」
その問いに、リナは首を横に振る。
何の計算だったのだろう……とリナは思う。どうせ、解らないんだろうけど。
「もしかしたら、ライラはセドリック様のこと嫌い?」
「……考えたことありませんね、仕事ですから。好きになれというのなら、なりますが」
リナの方をチラッと見て、言ってくる。
「仕事に支障が無いなら良いわよ。どちらでも」
まぁ何にしろ、仕事に私情を挟まないのは好感もてる。
「それより、勝手にこの辺ウロウロしてて大丈夫なの?」
侍女であるライラは、学園内においても身分に縛られている。
宰相の持ち駒のようだから、大丈夫だとは思うけど。
「大丈夫です。私自身、爵位を持ってますから」
ふ~ん、爵位を……ね。ってか、性別、女だよね?
取りあえず、これでアルフレッドは、裏で動く事は無くなるだろう。
上の学校に行くのなら、どちらを選ぶにしてももう準備に入らないと間に合わない。
セドリックは、仕方無いか。彼自身、なにか任務を持っているみたいだし。
私は、とりあえず『リーン・ポート』事を調べてみようと思った。
足下から固めていかないと、アボット侯爵もホールデン侯爵もリナにはまだ、遠い存在。とても、たどり着けない。
「ライラ」
「はい。リナ様」
「宰相様に連絡を取って欲しいのだけど……」
ライラと寮で話し合いをする。取りあえずの算段を付けて貰うために。
これからのことを話し合って、一息ついて紅茶を飲みながら。
それにしても……と、リナは振り返る。
今日のセドリックは、何だったのだろう?
あんなに、真っ赤になって大丈夫だったのだろうか……と。




