第50話 セドリックとの交渉
『守ってもらわなくてもいい』
ただえさえ、ケンカしたあげく、そう啖呵切って別れた相手なのに、交渉をマイナスから始めさせなくても良いのに……と、リナは思う。
(宰相を怒らせたのは私だから、仕方無いのだけれども)
「どちらにしろ、私がいたら返事はしにくいでしょう。人払いして席を外しますので、リナ様と話し合って下さい。リナ様、私は1時間ほど執務室をあけます。その間に交渉なさって下さい。失礼します」
宰相は、痴話ゲンカには付き合いたくないとばかりに、サッサと出て行ってしまった。
(いや…違うからね)
セドリックは、完全に人の気配が消えてから、リナの方を向いた。
「リナちゃん。さすがの俺も、ちょっとばかりムカついてるんだけど?」
昨日のリナとのケンカの後、アランはリナを送ったまま、部屋に戻らなかった。
多分、国王の依頼のことをリナは、アランに話してしまったのだろう。
アランが依頼の裏の意味に気が付かないはずがないのに。
……それに、宰相に折角、仕事としてリナの護衛に付くことを命令して貰うように依頼していたのに、いつの間にか、拒否権付きのリナのお願いになっているし。
セドリックは、言葉だけでなく。本当にムカついていた。
リナも、セドリックが怒っていることに気付いている。それも、かなり……。
それを自分の前で隠してないのは、珍しいとリナは思った。
「でしょうね。男なら殴ってるってことですか。良いですよ、別に殴っても」
殴られても仕方無いことを、自分がしている自覚があったからリナは言ったのだが。
セドリックは、はぁ? って顔をしていた。
(さすがにその発想はなかった?)
「交渉の材料に使おうって?」
(ありゃ、そっち方向にとられたか)
「いや、無理でしょう。この状態でセドリック様相手に交渉できるのなら、こんな事態になってません」
「で、何? やっぱり俺に守って欲しいの?」
「それは、昨日、言った通りです」
セドリックは、大げさに溜息をつく。
「正直言うとさ、宰相が安全なところに保護してくれるのなら、それが1番良いと思うんだけど。でも、その宰相が俺に仕事として持ってくるって事は、リナちゃんの意思を尊重するって事だろ?」
この意味分かるよねってセドリックは言ってくる。
「……そうですね。交渉条件なのですが、私が知っていることと宰相様が知っていることは、ほぼ同じです。受けて下されば、セドリック様に話して良いことなら宰相様が話して下さると思います。先日、私が言った守秘義務とは、そういうことなので」
失敗したとリナは思う。交渉に使えるカードがこれしかない。
もともと、この世界での交渉カードがほとんど無い状況だ。
なのに、今リナが持っているのは守秘義務に引っかかるものばかりで……。
(これはもう……無理かなぁ~)
「宰相が話せないって言うんなら、国家機密だよな。仕方ない……か。いいぜ、それで」
(え?ウソ)
「受けてくれるんですか?」
ビックリしすぎて、リナの目がまん丸になっている。
「まぁ、リナちゃんの護衛受けるんなら動かせる組織増えるから、メリットはあるよ。元々、そっち方面で動いてるし。たいした負担じゃないしな。ってか、なにビックリ顔で固まってんだよ」
「だって、怒ってたんじゃないですか?」
セドリックは、苦笑いした。
たしかに、本気で子ども相手にムカついていたからな。大人げないよな、俺も……とは、思うけど。
「まぁ、引っかかるところはあるけど、国家機密じゃね。言わなかったリナちゃんの方が正しいだろ?」
「いえ……そうではなくて…なんで? 危ないのに」
危ないから護衛に付くんだけど……リナの発想は本当に可愛い。
セドリックの手が頭に伸びてきて、リナの髪の毛をぐしゃぐしゃって乱暴に撫でた。
「なんでだろうなぁ」
(完全にいたずらっ子の顔だ。ゲームで見たことあるなぁ、この顔)
「ああ、それから仕事として受けてるんだから、俺に何かあっても俺の所為。これだけは、覚えとくように」
セドリックは思い出したようにリナに言う。
先程、乱してしまった髪の毛をチョイチョイと直してくれながら……。
「……えっと」
「俺に限らず皆、貴族社会で生きてるんだから。その覚悟が無いのなら。この仕事は受けれない」




