第4話 学園の日常
始業時間も近くなると、だんだんと教室内にも人が増えてきた。
気が付いたら、リナは下位貴族の令嬢達から囲まれている。
そういえば、そんなイベントがあったっけ。
でも、ゲーム内では首謀者はエイリーンだったはず。身分も、下位では無くて。
「リナ・ポートフェン様。夜会では、ずいぶんお楽しみだったようね」
リナがゲームと現実の差異に気を取られているすきに、首謀者だろう女の子がもったいぶった言い方をしてきた。
「はぁ」
それに対し、リナはキョトンとしてみせる。何のことか分かりませんという風に。
そのリナの態度に、詰め寄って来ていた相手はイラついたようだった。
意地悪そうな表情。自分の感情を隠そうともしない、いかにも……って感じ。
(一人の女の子を複数人で囲むだけでも、周りからどう見られるのか、気づかないのかしら? まぁ、夜会でやらかした私に言われたくないでしょうけどね)
王子たちをチラッと横目で見た。案の定、王子たちがリナと囲んでいる令嬢たちの方をガン見してる。
「貴女、もう少し立場わきまえた方が良いんじゃないかしら」
「立場……」
ギリギリ身分って言ってない。少しは、考えているようだ。
リナは、わざとうつむいて見せた。
泣いてるように見えたのか、王子たちが見かねたといった感じで席を立って、こちらに来ようとしている。その様子を、リナは目の端に捉えながら言う。
「この学園の中で、立場……身分差のことを言うのは御法度……ですわよね」
ややうつむき加減で上目遣いにそう言うと、囲んでいた女の子たちがギクッとなった。
リナはすかさず目の前の首謀者だろう令嬢の手を、両手でつかみ目の前まで上げ言った。
「下位貴族の私たちが、王子様方にお近づきになれる機会なんて、今しか無いんですよぉ」
意地悪そうな令嬢の顔が、ハッとなるのが見えた。よし、後もう一押し。
「せっかくの不敬罪が成り立たないステキ期間じゃないですかぁ。皆様もお近づきになれば良いのに」
元々、貴族の令嬢なんて少しでも良い縁談をと、夜会お茶会と奔走する肉食女子だ。
しかも、リナに嫉妬して、王子たちがいるにもかかわらず詰め寄る、という頭の持ち主。
ちょっと示唆するだけで、こっちにやって来ようとしてた王子たちを取り囲んだ。
ジークフリートとアランは、リナを助けようとしてやって来たはずなのに、自分たちが肉食令嬢の餌食になるとは思ってなかったようで、わたわたしている。
うん、ハッキリ笑顔が引き攣ってるよ。不敬って言えないものね。
タスケテクレテアリガトウゴザイマス……ゲームのセリフを脳内で棒読みしちゃった。
(いや、本当……なんか、ごめん)
でも、好感度上げるような、接触するイベントはキャンセルの方向でお願いします。
学園の学生として数日間過ごして分かったことがある。
数が少ないからか、何かを警戒しているのか。
上位貴族と言われる人たちが、ハメを外す事はない。
そもそも、下位貴族自体に関心を持たない。
リナといえば、最初に絡んできた女の子達と仲良くなっていた。
ただ、ジークフリートに会いに行くときに、強引に誘われるのには、辟易している。
あの場を逃れるためとは言え、ステキ期間なんて言うのでは無かったと後悔していた。
今、リナは、学園の中庭に作られたカフェテラスに連れて来られていた。
ジークフリートを中心に、紅茶を飲みながら、皆でおしゃべりを楽しんでいる。
リナは、なるべくジークフリートの目にとまらないように、端の方に遠慮がちに座っていた。
気をつけていたのに、ふとした瞬間に目が合ってしまう。
「リナ嬢は、私といても楽しくはないのだろうか?」
少し心配そうに…それでも、ロイヤルスマイルで訊いてくる。
(以前の私なら、真っ先に落ちてしまいそうな笑顔だ)
「とんでもございませんわ。ジークフリート様」
「そう?」
と訊いてきたジークフリートに、無邪気な笑顔だけを返す。
その笑顔を確認したら、また他のご令嬢達とおしゃべりを始めた。
(なんだかなぁ~)
リナは、そっとその場を離れる。
ジークフリートは気付いたようだけど、何も言わない。
リナはというと、気付かれたことは分かっていたが、知らんふりをして中庭を抜けて行った。




