第39話 エイリーンの慰めとリナとの立場の違い
寮のリナの自室の前に、エイリーンが立って待っていた。
「お帰りなさい。遅かったわねぇ。もう少しで迎えに行くところだったのよ、リナ様」
良かった。迎えに来られる前に泣き止んでいて。
セドリックから、抱きしめられてるところを見られるところだった。
リナの顔に少し赤みがさす。泣き腫らした顔なので解りづらいが……。
(そういえば、エイリーンとも事件以来だった)
「このたびは、大変ご迷惑をおかけしました。庇って下さってありがとうございます」
「謝るのはこちらの方よ。ジークに言った通り、私の思惑に乗ってくれたんだもの」
「あのような危険なものと分かってたら、乗りませんでしたが」
「まぁまぁ、お詫びに『シャングリア』のクッキー買ってきたのよ。食べてらして」
恐縮して暗い感じになっているリナに対して、エイリーンは明るくしゃべる。
(だから何で、私の好物がばれてるんだ?)
そのまま、エイリーンの部屋に案内された。
「社交シーズン中は戻ってこないのかなって、さみしく思ってたところなのよ。
女子寮、閑散としてるでしょ?」
エイリーンは顔を拭くためのぬれタオルを用意してくれた。ひんやりして気持ち良い。
「そういえばそうですね」
「この時期は、学校も開店休業中って感じで授業も無いんですって」
少し不満げに言うエイリーンに対して、リナは訊いてみる。
「エイリーン様は、戻らなくて良いのですか?」
「私は婚活の必要ないですもの。必要最低限の……王太子が出ないといけないものしか出れないの。つまらないですわ。リナ様は婚約者、いらっしゃらないの?」
「私ですか? いえ……いませんね」
「もしかして……デュークのこと、好きだったのかしら?」
「デューク様……ですか。友達としては好きでしたけど」
なんだろう、エイリーンらしくない話題選び。
ある意味、人の傷をえぐるような。デリカシーの無い会話。
「私ね、デュークが処刑されるの分かってて、伯爵家に誘拐されたの」
(エイリーン?)
「あのまま行けば、リネハン伯爵はもっと陰謀の中枢に取り込まれてたでしょう? もしかしたら、王太子暗殺の実行犯にさせられてたかもしれない。そんなところまでいってたから……」
「エイリーン様はジークフリート様のためにあんな危険なことを?」
その質問には答えず、エイリーンは話を続ける。
「あの時潰さなかったら確実にそうなってたでしょうから……。だから、この件で恨むのなら私にして欲しいの」
「恨む……なんて」
(デューク処刑の決断を下したのは私だ)
「ジークやアラン、セドリックですら、もっと時間をかければ何とかなるって方向で動いてたわ。だけど、セドリックは途中で無理だって分かってたんでしょうね。だから貴女が動くような情報を与えたのでしょうけど」
(裏で、色々動いてるなって思ってたけど……)
「……やっぱり、私の所為ですね。セドリック様は、私がエイリーン様に不用意に近付いて動きが不穏な方向に行き始めたから、方向転換せざるをえなくなったんです。私は、ジークフリート様からも、セドリック様からも、エイリーン様に近付くなと忠告を受けてました。でも、私はその意味が分からずそばに居続けたから」
リナは下を向いて言い続けた。
「では、私たちは共犯ね。責められるときは一緒に責められましょ」
妙に明るく笑って言われた。やっぱり、エイリーンはすごいと思う。
(エイリーンは全て分かっていて計算して動いてた。だけど、私は……)
リナの沈んだ顔をみて、まだ、純粋なんだなとエイリーンは思う、本当に。
「リナ様は、可愛らしいわよね」
(………は?)
「私は自分の行動での結果がある程度分かりますの。今回もそうだけど、人や自分の命より優先しちゃうこともあるわ。生まれてからずっとそういう立場に居たし、周りもそうだったから今まで当然だと思ってたけど。リナ様は、違うのよね」
(そんな世界に……生まれたときから?)
「ああ……変な風に取らないでね。リナ様の立場なら、それが当たり前なの。上位貴族と下位貴族に溝があるのはそこも含めてだから。だけど、この事件でリナ様の立場は変わってしまうわ」
「そう……でしょうね」
エイリーンは、ふぅ~って感じで続きを言う。
「多分、明日辺りジークからの呼び出しがあるでしょうけど」
(……あるんですかい)
「ああ。今回関わった方々。皆個別に呼ばれてるし。単なる謝罪だから。でも、もし怖かったら私もついて行きますわ。私も少しは剣扱えますのよ」
(ジークフリート、無抵抗でやられるな……多分)
「いえ……大丈夫です」
学生寮内の惨劇なんか見た日にゃ立ち直れなくなる。
いや……ギャクなら有りか?
(私も大概思考回路が壊れてきたな)




