第38話 セドリックの優しさと後悔
久しぶりの学園。
あの事件のある前が遠い日のように感じているのに、まだ1ヶ月くらいしか立っていないなんて嘘のようだった。
教室内でクラスメイトと話していても、事件の話は出て来ない。噂が立っていない事にホッとしていた。
元々、下位貴族は上位貴族の方がいなくなっても気にしない。
しかも社交シーズンも、あと2ヶ月くらいなので、どちらかというと婚活の話で盛り上がっているようだ。
リナが教室から寮に戻るために廊下に出ると、セドリックが待っていた。
「よう、やっと出てきたな」
(まだ、会うのが辛い)
リナは、でもそれはセドリックのせいじゃない。と思い直しセドリックに挨拶をする。
「お久しぶりです。セドリック様。先日は、危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
セドリックは、苦笑いというか、なぜだか微妙な顔をしていう。
「それ、お見舞いに行ったときも聞いたけど……」
ああ、そういえば来てくれていた。
(ありがとうございます……じゃないだろう、私。本当なら合わす顔も無いのに……)
「すみません。お見舞いまで来て頂いて……」
リナは、ずっと下を向いていた。
だから、リナにはセドリックの辛そうな顔も見えていない。
最初こそ怯えさせたけど、いつも笑って明るかったリナを……。
図書室で『大好き』って言ってくれたリナをこんな風にしてしまったのは自分なのにな。セドリックはそう思う。全て自分の所為なのだと。
アルフレッドが、見ていられないから何とかしてくれ、っていった気持ちも分かる、このリナを見続けていたら。だけど……。
(俺に何とか出来るとは、思えないんだけどな。やっては、みるけど……そのままお別れになりそうだ)
「お前、何かおかしくないか?」
「そうですか? 普通だと思いますけど」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ」
リナは、もうどうしょうも無いなって思う。大丈夫か? と聞かれたら考える前に大丈夫って言ってしまうのは。
(これからの事を考えると、大丈夫にならざるを得ないとはいえ……)
「感情からは、逃げない方がいいぜ。リナちゃん」
(え?)
「じゃ、な」
「セドリック様?」
「今のリナちゃんと一緒に何かする気にはなれないからな」
セドリックは、足早に2年の教室の方に歩いて行った。
(……見捨てられた?)
足下が崩れた気がした。リナはその場にへたり込む。
浮かれて、出来もしない依頼を受けてきて……。
あげくに、セドリックに迷惑掛けて、死なせてしまうところだったんだ。
見捨てられて当然だ。彼は、大好きだったゲームのキャラクターじゃない。
勝手に、セドリックなら、何とかしてくれると思っていた。
味方にさえなってくれたらって、甘えて……。
リナの目から、ぽたぽた涙が落ちてきた。
(勝手だ。勝手すぎる私。こんな、みっともない涙……)
セドリックに見られなくて良かったと思う。
「やれやれ……。やっと泣いたか」
セドリックがすぐ近くに来て片膝付いて、リナの方を見てる。
「セ……ドリックさ……ま?」
「泣くことも出来なかったんだって? アルフレッドが見てられないって言ってたぞ」
セドリックはリナの頭を撫でる。
リナが一生懸命涙を止めようと、手で目を擦っていた。
セドリックはその手を取って止める。
「無理に止めなくってもいいんじゃない? 気が済むまで泣きなよ」
そっと、抱きしめた。
「だ……って」
なんか、小さいなリナの身体……。
「しゃべるなって」
小さな背中を撫でてあげる。子どもにするように。
(こんな子どもに、死ぬ覚悟をさせてしまったんだ、俺は……)
「見捨てたりしないから」
そうリナに言いながら、
(いつか、見捨てられるのは俺の方かも知れないな。今は、俺に身体を預けて泣いてくれているけど……)
この廊下、つくづく人払いしておいて良かった。
アルフレッドは、影に潜んでいるけど……。なぜか、気配が怖くなっているのを感じながら、リナを慰めていた。
セドリックは、本当にリナが泣き止むまで待ってくれていた。
「ごめんなさい。セドリック様」
「謝らないでいいから。リナちゃんを泣かせてしまったのは俺だし」
セドリックはリナを寮の前まで送った。
「ありがとうございました」
リナがお礼を言うと、セドリックは頭をポンポンとして廊下を戻っていった。




