第37話 学園に戻る挨拶 リーン・ポートの話
先日のリネハン伯爵家の誘拐事件の後始末は、夫妻と息子、及び直系の親族の処刑を持って終了した。先日、リナが持ち帰った書類では黒幕までたどり着けなかったのだ。
ならばリナもいつまでも屋敷に籠ってはいられない。
何よりデューク・リネハンの死が無駄になってしまう。
彼は、自分の命と王太子殿下の命を比べて……自分の命を捨てることを選んだ。
(私が捨てさせてしまったんだ)
リナは、自分の父親の執務室をノックする。
「リナです。入ってよろしいでしょうか?」
「お入り」
父とはこの前王宮からの呼び出しの手紙を貰ってから、あまり会っていない。
「学園に戻る為の挨拶に来ました」
ドレスのすそを持って、挨拶をする。
「そう。まだここに残っても良いのだよ。どうせ、今時期は学園に行っても授業もないだろう。令嬢方は、夜会で学校に来ていない方々も多いだろう?」
「夜会に出る予定があるのでしたら、もう少しいますが……」
「あ……いや、予定はない…な」
ふぅ~と、父は溜息をついた。
「リナは逃げないのだね。このまま領地に帰って、領民に混じって生活しても良いのに」
確かに、子爵家程度の家の娘なら、嫁ぎ先によって貴族の地位を捨てれる。
さすがに王都に近ければ無理だが。
うちみたいに片田舎の領地でなら、前例もわりとある。
貴族を続ける気がないなら学園を卒業しなくても良いだろう。だけど……。
「ご存じでしょうけど、私は王命を受けてます。それに、死ななくて良い方を死なせてしまいました」
リナは、淡々と言う。もう、感覚が麻痺しているのかも知れない。
「その方から、紹介して頂いた方々もいます」
「だれだね?」
「夜会でアボット侯爵家とホールデン侯爵家のご子息を紹介されました」
リナが言った名前に、父が頭を抱えてしまっている。
「なんでまた……」
「お父様?」
「王太子殿下の派閥と第二王子殿下過激派、派閥のトップのご子息……だよ」
(あ~。味方になってくれる人を紹介してくれたと思ったのに……面倒くさい方々を……って感じかな? イヤだな)
「リナ」
「はい」
「リナは、国王陛下からアレをもらったんだったよな」
「ネックレスですか?」
「リナはネックレスの形になったのか。私はブレスレットとして持っている。親子二代で同じ家系から出るのは珍しいんだが、戻る前に少しこれと先代の話をしようか。ソファーに座りなさい」
「はい。お父様」
リナは来客用に置いてあるソファーに座る。
父もテーブルを挟んで座った。
「これはある意味、試金石なのだよ。太古の、それこそまだ我が国に魔法が存在してた頃の名残だ。名前はリーン・ポートと言う」
「女性の名に聞こえますが」
「そうだね。これを創り出した者の関係者だったのではないかと言われている。これは国王が在位中ただ1人にだけ与えられて、1度だけ次世代の国王から書き換えられるんだ。持ち主が死んだらその者と共に消えてしまう魔法物だけどな。話を戻すけど、現王の時に、王位継承が揉めたのは何でだと思う?」
「お家騒動だったのでは? 首謀者の貴族は一族郎党処刑されたのでしょう?」
「表向きはな。第一王子も第二王子も現に亡くなってる。処刑された貴族は自らその役を買ってでたから、本当に処刑はあってるからな」
「一族郎党、みんな巻き込んで……ですか? 罪も無いのに?」
「そうだ。罪どころか、これ以上国家のことを考えてた人はいないと言うくらいの忠義者だ」
「なぜそこまで……」
「第一王子も第二王子にも、これを生み出すことは出来なかったからさ」
「即位前にどうして分かるのですか?」
「私のは前国王から賜った物だ。それを持っていると次代の国王が分かってしまうのだよ。現国王以外書き換えれないからな、このリーン・ポートを」
「書き換え……」
「ああ。リナは現国王から賜っただろ? でも、実際に仕える国王は次代が中心になる。実質、リーン・ポートが選んでるんだ国王を」
なるほどエグい話だ。
第三王子が選ばれてしまったために、上の2人の王子は死ななければならなかった。
後に禍根を残さないように……。
「それにリーン・ポートは、どうしたことか下位貴族しか賜ることが出来ない。そして、優秀な側近に仕立て上げられる。中身がどうであれな」
「バカには渡さないと言ってた気がしますが……」
「そもそも、バカはリーン・ポートが選ばないだろう?」
(ごもっともで……)
「それに、なぜかこれを持つ者には、ときに国王ですら逆らえないのだからな」
(なんだか話の流れ的に分かってしまった。当時のお父様の地位からしたら)
「現国王のお家騒動の時に決断を下したのは、お父様でしたか」
(それと多分宰相様……)
「そうだ。判断できる国王が不在だったからな。リーン・ポートのことは、国王と宰相、あとは所有者しか知らない。知れ渡ったら大事になる」
「そうですね。それが下位貴族にしか賜れないとなると……」
考えまい、もっとエグい考えになるから。
「わかりました。誰にも知られないよう努力します」
リナは、ソファーから立った。
「やはり学園に戻るのかい?」
それには答えず
「お父様、逃げた先に安穏はありましたか?」
と言って執務室を後にした。




