第36話 デュークの願いとリナの決断
国王の御前を辞して、別棟の地下にある牢に向かう。
リナは、宰相と連れだって廊下を歩いていた。
「リナ様は、強いですね」
宰相はぼそっと言う。
なんだか、カチンときた。まだ自分の中に、怒りの感情があることに驚きはしたが。
(私は強くない。今だって、やっと立ってる。中身は空っぽだ)
「気に障りましたか? でも、わたしが最初に他人の人生を決めてしまえる地位にいると実感したときは、とても立って居られませんでしたから」
宰相はしずかにリナに言った。
リナは、その話題には乗らず宰相に訊いた。
「先程の話ですが、私が下した決断はどうなるのですか?」
実行されなければ、意味が無いのですが……とまで言わなくても分かってくれる。
「こちらで引き取って、そのように取りはからいます。それが、例え両方助けると言う決断でも」
リナは信じられない思いで、宰相を見る。
「信じられないと言う顔をしてますね」
宰相は穏やかに言う。
「それは……そうでしょう? だって、それは……」
(両方助けられたら、どんなにいいだろう)
「どういう決断でも、こちらは受け入れます。国王陛下の言葉として」
国王陛下の言葉として。リナは心の中で反芻する。
ダメだ……と思う。リナ個人の感情でなら、確実に助ける方を選ぶ。
(何もわからない子どもだったら、良かったのに)
吉岡里奈の記憶が無いリナ・ポートフェンなら、今の言葉を聞いても助けている。
15年間しか生きて無く。しかも、本当に何も知らない子ども。
正直、うらやましいと思う。
(でも、わたしは……)
そうしてるうちに、牢のあるところまで降りてきた。
牢番は、宰相はともかく貴族の令嬢が降りてきたことに、ギョッとしたようだった。
宰相が牢番に話を付け。
リナには「ここでの言動は、公式記録に残りますから」と念を押した。
リナはデュークがいる牢の前に立った。
顔を上げたデュークは、リナがこんなところまでやってきている事に、驚いた表情を見せた。
だけど、一緒に居る宰相と牢番を見て無表情になる。
「言伝を伝えます」
誰からと言わずとも、デュークは跪いて礼を執る。
「そなたの願いは叶った」
国王の言葉は短く。言質を取られてはならない。だからリナは短い言葉で言う。
デュークには、ちゃんと伝わったようで、一瞬嬉しそうな泣きそうなそんな顔を見せた。
「有り難き幸せに存じます」
と言ったきり、礼を執ったまま動かなくなった。
そのデュークを残し、私たちは牢を出る。
ほどなく、リネハン伯爵及びその関係者の斬首刑が執り行われた。
彼が願ったとおり、その中に彼の妹たちは入っていない。




