第40話 ジークフリートの謝罪と提案
ジークフリートは、自室でリナ・ポートフェンを待っていた。
今回ジークフリートは、国王陛下から厳重注意を受けている。
まず、身分のことを言ってはいけない学園内の生徒に対し、王族の権威を振りかざしたこと。
もう一つは、リナ・ポートフェンとその兄アルフレッド、セドリック・クランベリーを感情のまま斬り殺そうとしたこと。
本来なら、王族と言えど、処罰の対象だ。
減刑の理由は語られなかったが、学園内に所属する4名に対する謝罪を行うことで、この件を不問にすると命じられた。
昨日まで、3人には謝罪できている。
散々な言われ方をしたが。みんなが怒っていたことは、リナ・ポートフェンに剣を向けたことだけだった。
私から斬り殺されそうになったセドリックですら、自分のことは言わず、リナに剣向けたことに怒っていた。
リナの兄である、アルフレッドによると。
あれ以降、リナは笑うことも、泣くことすら出来ず……どこか、心が壊れてしまったように見える生活をしているらしい。
冷静に考えたら、自分でもなんて事したんだと思う。
デビュタントしたての。何も知らずセドリックを信じて行動しただけの女の子を、私は斬り殺そうとしたんだ。
しかも、リナは命乞いをすることも、逃げることもしなかった。
……セドリックが止めてくれなかったら、私は。
コンコンと控えめなノック音が聞こえる。
「リナ・ポートフェンです。入ってよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
(責めてくれたらいいと思う。思いっきり罵ることで、リナが元気になるなら)
ジークフリートはそう思ったから、リナが入ってきた途端。
「申し訳なかった」
勢いよく謝った。思いっきり、頭を下げる。
「謝って済むことじゃないのは重々承知している。だから。好きなだけ罵れ」
「……は?」
リナは、固まってしまった。
最近、ずっと頭の中真っ白だったけど、別方向に思考が止まってしまった。
「他の3人はもう、いっそ清々しいほど、くそのみその言ってくれたぞ」
ジークフリートはヤケクソのように笑っている。
罵れ……と、言われても。この上ジークフリートにまで優しくされたら、逃げ場が無くなる。
「あの場で、ジークフリート様に言われたことは、肝に銘じてるところです。他の皆さんは優しくしてくれるばかりで、文句一つ言ってくれません」
ジークフリートは笑うのをやめて、少し呆れたような顔になった。
「リナ嬢。君は自分が15才の女の子だって事、忘れてない? 今回、私が皆から罵られたのは、君に剣を向けた……この1点だけなんだけど」
リナは、呆然とジークフリートを見上げた。
まぁ、立ち話も何だから……と、テーブルの横の椅子を勧められた。
素直に座ってテーブルを見ると、紅茶セットは良いとして。
なんだか、お菓子がてんこ盛り……綺麗に飾り付けられてはいるけれど。
ジークフリートは、甘党なんだろうかと疑ってしまうくらいに。
「誤解する前に言っておくが。それは、リナ嬢に食べさせてくれ、と皆が置いていったお菓子に、私が用意しておいたお菓子を加えたらこんな事に」
(これ、持って帰れとか言わないよね。持たされそうだけど……)
「話を戻すけど……。皆、君に頼りすぎだ。優秀だろうが何だろうが、君は15才の女の子なんだ。どんな理由があっても、あんな事件の……。自分の命を優先できない場所に、放り込んで良いはず無いだろう」
(ああ……この人は最初から私を子ども扱いしてたしな)
「皆が優しいのはそういった理由からだし。本来、君には何の責任も無いことだからだろう。君をこんなにボロボロにして……。君は、私や皆に対してもっと怒って良いんだよ。国王に対しても……だ」
ジークフリートは、何か知ってるのだろうか。
「……今後は、もっと状況はひどくなる。このままだと容赦なく君も巻き込まれると思う。もし、君が逃げないと言うのなら、守られることも覚えた方が良い」
「結果的に守られてました」
(実際、私には何の実力も無い)
「結果的に……だろ? リナ嬢はエイリーンを守りながら屋敷を脱出したんだよね。エイリーンは守りにくかった?」
(いや……エイリーンはこっちの意図をくんで動いてくれたから守りやすかった)
「いえ。守りやすかったです」
「だろう? 守り手の邪魔にならず、相手の意図をくんで動く事は、一緒に闘ってるのと同じなんだよ」
(目が覚めた気がした)
「まぁ、逃げても良いけどね」
リナは反射的にジークフリートを見てしまった。
「どうせ、そのうちわんさか縁談が来る。いろんな思惑から逃げられなくなる前に、私のところに来るか?」
「え……」
「私の側室になるって言う手もあるって言ってる。どうせ卒業と同時にエイリーンと婚姻を結ぶ。そしたら側室ももてるようになる……って、どん引きしてるの顔に出てるぞ」
「いや…だって」
リナは、ちょっと……いや、気持ち的にはこの部屋からすぐにでも退出したい気分になった。
「エイリーンとも話したんだ。側室になれば最初こそ危険だろうけど、王太子の通いが無い側室は取るに足らない者という認識になる。子を生さない側室は2~3年も経てば、お役御免で実家に戻されるか、臣下に下賜されるようになるんだよ。まぁ、そばにいれば私もエイリーンも守れるし、安心だからな」
(あ……なるほど、これジークフリートルートだったんだ。現実だったらこういう落ちになるのか)
「ありがとうございます。でも、私もう少し頑張ってみようと思います」
「そうだな。ただ、逃げたくなったら来てくれて良いし。そうでなくても、リナ嬢の味方になるよ」
「私は、ジークフリート様の味方で居られないときもあると思いますが」
「それでも、味方でいるよ」
ジークフリートが優しい目でリナをみる。兄たちを思い出すような、優しい目。
「これが詫び代わりでいいかな」
「充分です」
ジークフリートにつられてリナも笑った。




