第21話 ジークフリートの忠告
ジークフリートは、ものすごく言いにくそうにリナに言う。
「その……私の派閥にも、過激派がいてね。君はそういう場合の保護対象に入ってないから、とても危ないんだよ」
(へぇ~)
「あの。学園内って危なくないって訊いたんですが」
(誰からとは言わない。不安そうに、聞こえるかな?)
「さっき、私相手に身動き取れなくなってただろう? 部外者は入れなくても、派閥の子息はいるよ。それに、学園から一歩外に出してしまいさえすれば、あとは関係無くなるからね」
ジークフリートは、基本的には女性に優しかったはずだ。
ゲームでも、主人公がらみで悪役令嬢を斬罪したとき以外は、他の女性にも優しかった。
その優しい彼が、怯えそうな女の子に対してこういう話をするって事は、本当に危ないことになっているのかも知れない。
つまりは、自分の派閥の過激派を抑え切れてないって事だ。
アランの派閥も変わらないだろう。
ということは、セドリックの根回しも、そこからしているのかも知れない。
「怯えさせてごめん。でも、本当に危ないんだ。アルフレッド……お兄さんには私から伝えるから、お兄さんと一緒に自宅から通ってくれないか」
「伝えないでください」
(マジ勘弁。やめて下さい。誘拐されるより、そっちの方が怖いです。いろんな意味で)
「……兄に伝えたら、家族に伝わってしまいます。そんな憶測で、心配かけたくないのです」
リナは口に手をやり、うつむき加減でいった。
家族に心配かけたくない、けなげな令嬢を意図して演じる。
「憶測で言ってるわけじゃないんだ。リナ嬢」
「私を利用しても意味が無いのではないのでしょうか? 私は所詮、子爵家の娘。
ここでは身分のことを言うのは禁止されているとはいえ。クラスの皆様方を見ていると、とても公爵家の令嬢と仲良くなれるとは思いません」
「エイリーンはリナ嬢の問いかけを無視したか? しなかったろう。たとえこれが王宮でも無視したりしない。これまでも、話しかけたそうにしている人たちを使用人といえど、一度たりとも無視したことはない」
(それは……また……)
エイリーンは公爵令嬢である。その身分で、使用人にまで気を配るなんて……。
「俺たちは、幼い頃から一緒にいた。セドリックもそういうエイリーンをよく知ってる」
(セドリックとも幼なじみでしたか。まぁ、あいつも公爵家だっけか。でも……)
「お優しいんですね。エイリーン様」
「ああ。そういう女性だから、私は……」
ハッと、自分の口を押さえた。ジークフリートの頬に赤みがさしている。
(青春だなぁ~)
リナは思わず温かい目で見てしまった。
(うん。時間のあるときにゆっくり聞かせてもらおう)
「私を誘拐して、得するお方などいるのでしょうか?」
リナは、自分の立場が分かっていない、子どものような質問をした。
「それは…どちらの派閥にもいるだろう。少なくとも、アルフレッドや君の家は動くだろうからね。リナ嬢は知らされて無いようだから、私の口からは言えない。だけど、ポートフェン家の現当主の価値を、皆まだ忘れてないから……」
(国王陛下側と見解は同じか。父の価値……ねぇ)
本当は、他にも訊きたいことがあったのだが……この分では立場上言えないことは、言わないだろう。
里奈の世界の、優秀なビジネスマンが会社側の意見しか言わないように……。
それに、夕食の時間も近い。
「……自重します」
「ああ、そうしてくれ。さて、そろそろ戻るか。紅茶、ごちそうさま」
お互い、にっこり笑って別れた。
(ごめんね、王太子殿下)
リナは、もうすでにエイリーンの思惑にも乗ってしまっている。
エイリーンの思惑も知らぬまま。




