第20話 ジークフリートとリナの部屋
図書室での勉強が終わって、リナは寮の廊下を歩いていた。
とりあえず出来たレポートを自室に持って帰ってしまいたかった。
(歴史苦手だもの。紛失したらもう二度と、同じものを書ける気がしない)
そう考えながら歩いていた。そうしたらいきなり後ろから口を大きな手でふさがれ、連れて行かれそうになる。
廊下には、手に持っていたレポートがばらまかれた。
男性だ、こんな力。ジタバタしても外れない。そもそも足も浮いている。
(か……顔だけでも……)
一生懸命顔を動かした。動かした拍子で口から手が外れて、相手の顔も見れた。
「ジーク……フリート……さ……ま?」
(なんで、こんなところに……)
リナは、相手を確認して抵抗をやめた。ジークフリートの方も、逃げないと分かるとすぐに解放する。
「マクレガー様のお部屋は、もう1階上になりますが……」
一応、可能性として言ってみる。リナを拘束した時点で違うだろうけど。
「リナ嬢に会いに来た」
(ここ、女子寮なんですけど……特例……?)
「どうぞ。こちらへ」
リナは自室に案内する。そうして、扉の前で待ってもらう。
中にいるだろうマリアは、侍女としても王族の前に出れない身分だ。
ティーセットの準備だけしてもらって、奥の自分の部屋に入ってもらった。
「お持たせしました」
と言って、ジークフリートを招き入れた。
テーブルセットについている椅子に座ってもらって、紅茶を入れる。
お茶菓子には、チョコレートボンボン。ちょっと高級。
いつもの余裕の王子様スマイルは消えている。
「お口に合えばよろしいのですが」
ジークフリートは、紅茶に口を付けた。王族は毒味役を介さない物には、一切口を付けない。学園の食堂にも、毒味役がいるくらいだし。
だからこれは、「貴女を信用してます」というパフォーマンスだ。
(毒なんて入れませんけどね)
「エイリーンに近付かないで、もらえないだろうか」
前置きも無くジークフリートはリナに言う。
「はぁ。レポート、やっぱり自力でやらないとダメですかね」
リナがボケてみせたら、ジークフリートから思いっきり溜息をつかれた。
「セドリックから頼まれたのか?」
「いいえ」
即答したら、ジーッとこちらを見られた。
「……頼まれたと言えないのは、わかるが」
(信じて貰えない……か。本当のことなんだけど)
何か言いよどんでいる。余程言いにくいことなのか。
もしくは、リナ相手に言って良いのか迷っているのか。
「その……今の君の立場は、アラン寄りに見える。君の考えがどうでも、セドリックがそう見えるようにしていたからね」
(思いっきり利用されてましたからねぇ、私)
「その君が、エイリーンと仲良くしていたら、周りには、どう見えると思う?」
「周り……ですか」
(そっか、他に何もない分。情報源はうわさのみ……)
「君がエイリーンを第二王子側に取り込むために近付いたように受け取る人間もいるって事だ。君は、エイリーンと仲良くするだけで良い。後は、セドリックが上手くやるだろうからね」
考え込んでしまったリナを見て、ジークフリートは優しい目になった。
リナがショックを受けたように見えたから。
「ごめんね。セドリックを信じてたんだろ? 利用されてたなんて、信じたくないだろうけど」
(ご心配なく。そういう意味では全く信用してませんから)




