第12話 デビュタント 国王陛下の執務室に呼ばれた理由
「その娘、リナと言ったか……。ずいぶんと優秀だそうじゃないか。学園での報告が上がって来ているぞ」
国王の言葉は無視することが出来無い。父は仕方無く振り返る。
「語学や算術が得意なのは、そなたの血ゆえにか?」
「努力のたまものでしょう。そもそも、学園の勉強は飾り程度のもの。優秀もなにも、少し勉強すれば出来るようになるでしょうに」
リナの父親はため息交じりに言う。
「勉強だけならばなぁ」
そう言って国王は苦笑いする。
「入学後の夜会で、申し込まれたからとはいえ婚約者のいる王太子のパートナーになる愚か者かと思っていたら。自分に敵対してきた令嬢たちを懐柔して味方にする手腕。第二王子派の、高官でも手を焼く程切れ者と評判の、側近候補と渡り合おうとする度胸」
(学園内って監視されてるの? 私に変な評価が付いてるけど……。って、セドリックってそんなに優秀なんだ)
「そして、今日の謁見の間でのやりとり。王の間違いを指摘せず。自分の容姿を充分理解して警戒して見せ。マナーが出来てないのは、全て自己責任ですと言い切った、勇気。あの誰もが緊張する場で、とっさに判断し、最良の言動をとった。そんなの見せられたら、誰だって欲しいと思うではないか」
(うわ~。何その評価。欲しいって何? 欲しいって……)
リナは、思わず上目遣いで父を見てしまった。
そうしたら、父の方も、何やらかしてるんだって顔でこっちを見ていた。
「あの場には、色々な立場の貴族がそろってました。ですからリナ様にはいち早くこちらに来て頂いたのですよ」
今まで黙っていた宰相が口を開く。それでも、父は頑張ってくれた。
「まだ、物の道理も分かってない子どもです。謁見の場での言動がどのようなものか知りませんが。無知ゆえ、公式の場の怖さが分からなかったのでしょう。けっして、勇気などではありません」
宰相は、苦笑いをして父とリナを見る。
「子どもは、子どもという立場を利用したり、王様の言質をとって無礼な言動が許される場をつくったりしないと思いますよ」
「……は?」
父はずいぶん間抜けな顔をした。自分の机に座っていた国王が俯いて肩を震わせて、笑いを堪えている。
「今まで、学園からの報告は大げさに書かれた物だと思ってましたからね。私も謁見の場にいなければ信じませんでしたよ」
宰相は大げさに溜息をついた。
「なんせ、実年齢15才。今日がデビュタントの、儚く可憐な容姿をしている少女の中身がアレなんて……」
(おい……アレとはなんだ。アレとは……。折角、リナ・ポートフェンに合わせて、言動抑えてるのに)
「立場を明確にしとかないと、ご令嬢の争奪戦が始まりますよ。失礼ですが、今の身分のままでは揉みくちゃにされかねない」
それは、そうなのかもしれない。王族・貴族の世界なんて、前の世界でも書物を見る限りあまりきれいな世界では無い。できれば、関わりたくないと思う程に。
そして、この世界。身分差が無いようで、きっちりある。
(……でも、さっきのやりとりから、ずっと気になっていることがあるんだけど……)
「あのう……。ちょっと、訊いて良いですか?」
おずおずと、前世のノリで手を挙げると
「はい。リナ嬢」
と、国王がのってきた。
(ノリ良いな。この王様)
「もしかしたら……もしかしたらですよ。わたしがバカ丸出しで、王子たちの言いなりになってたら、目をつけられなかった……とか?」
「それは……まぁ、その通りだな。でも、父親を釣るエサくらいには、なってたかな……」
今日の父を見る限りでは、自分のことなら簡単に切り抜けただろう。
(今までの努力。全否定かよ)
リナは、ガックリと肩を落とした。
「初めのセーブポイントからの、やり直しを要求します」
ボソッと言ったつもりだったのに
「「「せーぶ?……なんだって?」」」
と、全員から突っ込み入れられてしまった。
(息合ってんじゃないか、こんちくしょう。本当は仲良いんじゃ無いだろうな、父よ)




