第11話 デビュタント 国王陛下とお父様
宰相に長い廊下を渡って連れて来られたお部屋には、大きな鏡と大勢の侍女の方々。
隅の方に、湯浴みの用意までされていた。
(いや、本当にこれ、夜伽だったりしないだろうな)
ガシガシ磨かれた後、王宮でウロウロしてても可笑しくない、豪奢だけど落ち着いたドレスに着替えさせられていた。
サイズ、ぴったりなんですけどね。デビュタント用のドレスのサイズがもれたか。
謁見用にきっちり上げられてた髪はルーズに上げ直された。
(普段着の王女様って感じ……かな? 例えが、かなり不敬だけど……)
リナの普段着は、ワンピースみたいな感じで、髪だって降ろしっぱなし。
大人っぽい人なら、色気も感じさせるかもしれないけど……所詮は、子どもだ。
背伸びした子どもがいます、鏡の中にって言いたくなる感じになっていた。
用意が出来た頃、近衛騎士団の方が迎えに来た。国王陛下の執務室に行くそうだ。
執務室の扉の前で、やっぱり近衛騎士団の方に連れられた父と出会う。
(よかった)
リナは安堵したが、父は娘を無視して扉に向き直った。
「クラレンス・ポートフェンです。失礼致します」
話を交わす間もなく、扉が開いた。父がスッと入っていったので、リナもそれに続いた。本来、仕事以外で子爵風情が入れる場所ではない。
娘に構っている場合では無いのかも知れない。
入ってすぐ入口の所で、父は国王陛下に向かって、臣下の礼を執っていた。
リナもそれに習って、礼を執る。
「国王陛下におかれましては、御健勝のことと心よりお慶び申し上げます」
と、父が決まり文句のような挨拶を続ける。
部屋の中には、国王陛下と宰相がいた。
国王は、ずいぶん若く見える。せいぜい大目に見て40代前半か。
アランによく似てる。
「人払いは済ましておる。白々しい挨拶より、本題に入りたい。もう少し中へ」
国王は謁見の間に居るときのように、ゆっくりしゃべる訳でなく、普通にしゃべった。
リナの父親は、国王に言われるまま部屋の中央まで進み出た。
「なんでございましょう」
本来なら子爵の身分では入れない国王の執務室。なのに、父は恐縮するでも無く堂々としている。
だけど、ものすごく警戒して、ピリピリしてるのが分かる。
こんな父は、初めてだ。
「そなた、王宮に戻る気は無いか?」
「無いですね。王宮での立場など、もう20年も前に捨ててます。それに、戻れる功績も無いでしょう」
「功績など……どうしても、要るというなら、そなたの娘を王太子の正妃に……」
「いっそ、私を不敬罪で斬首刑になさいますか」
父は国王の言葉を遮るように、大きな声で物騒な事を言い出す。
その目は、国王を刺すように睨み付けていた。
その剣幕が怖くて、リナは思わず父の腕にしがみつく。
「……すまない。戯れがすぎた」
国王の方が折れた。
「……いえ」
しがみついたリナの手に父の手が重なる。
「それだけが、ご用件なら失礼します」
リナの肩を抱き、連れだって執務室を後にしようとしてた。




