第10話 デビュタント 謁見の間での出来事
リナは、しずしずと謁見の間の中央まで進み出た。
作法は、事前に身体にたたき込まれた。
膝を少し折り、令嬢としての最上級の礼を執る。
玉座に王様、すぐ横に王妃様が座っている。少し後ろに下がって側室の方々。
両横の壁には側近だろう貴族たちが立っている。各扉の近くには近衛騎士団の方々、謁見の間の後方に使用人たちが控えている。
目だけで見渡して、配置を確認するのは、前の世界からの習慣になってしまっている。
後は、お言葉を待つばかり。
すると国王陛下の口から
「リナ・ポートフェン。近くに……」
と言うお言葉が……。
(……今……なんとおっしゃりました?)
リナは、反応できずその場で固まってしまった。
王の後ろに並んでいる、側室の方々はざわついている。
他が無反応なのは、知っていたからなのか。
もしくは、不敬に当たるからスルーしているのか。
時々、値踏みするような視線も感じるけど。
一瞬、リナもスルーして『お言葉、有り難く頂戴いたします』って言って退出して良いかなぁって、思う。
(何のギャグだよ)心の中で突っ込みを入れた。
「リナ・ポートフェン。余の近くに参られよ」
(聞き違いじゃなかったか……どうしよう)
「国王陛下。発言のお許しを願います」
礼を執ったまま言う。
(お願い不敬って言わないで……今の時点で、アウトって分かってるから)
「直答を許す」
「恐れながら申し上げます。わたくしは、子爵令嬢としての礼儀しかわきまえておらず。身も凍る思いで、身動き一つ取れません。どうか、お許し願えないでしょうか」
「学園や家庭での教育か」
国王陛下は、ゆっくりと不穏なことを言い出す。
(まずい。このままじゃ、学園の教師や家に迷惑がかかる)
「とんでもございません。一重にわたくしの勉強不足に存じます」
「そうか……。それでは、この時限り、無礼、不作法な振る舞いがあっても許す。こちらへ……」
伯爵家令嬢と間違えている訳では無いらしい。諦めて、そばに寄る。
もう一度、同じ礼を執った。
「顔を上げよ」
リナは、ゆっくり顔を上げた。国王陛下に向かって微笑む。
「宰相……これへ」
国王陛下が指図すると宰相と呼ばれた男性が、リナの横に立った。
「ご相談したいことが、ございます。こちらに一緒に来て頂けますか?」
(嫌です。拒否権下さい)
「わたくしのような、礼儀もままならぬ子どもに……で、ごさいますか?」
大変無礼だ。下位貴族の令嬢風情が、国王陛下に次ぐ地位の宰相閣下に口答えしている。
だけど、先程、国王陛下の言質はとれている。
無礼、不作法な振る舞いがあっても許す……と。
宰相は、さすがに一瞬も表情を崩さなかった。嫌な顔した貴族もいるのに。
「ずいぶんと、頭の良い方だ」
と、ため息交じりに宰相が言う。この声の大きさなら、周りには聞こえてないだろう。
(ん? 頭の良いやりとりを交わしたつもりは無いけど……?)
「ポートフェン家当主も呼んでおります。支度が済み次第、こちらに向かうはずです」
(良かった、夜伽命令とかで無くて)
デビュタントの謁見もまだ後がつかえている。
これ以上、ごねても仕方無いので、大人しく宰相に連れられて謁見の間を後にした。
(お父様も呼ばれているって、何だろう? 私、また何かやらかしたかしら? やっぱり、付いていった先が王様の寝室とかだったら笑えない。国王がロリ趣味じゃ無いことを祈ろう)




