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第104話 ホールデン侯爵家へのお礼 セドリックに引き渡された

 サイラスが出て行った扉の方に、セドリックが大股で近づいたかと思ったら、カタンと鍵をかけた音がした。


「あの……なんで、鍵を」

 かけたのでしょう? って、リナは怖くて続けられなかった。

「ん? 邪魔が入らないように……かな? とりあえず、座ったら?」

 ソファーの方に促されたので、リナは大人しく座った。

 セドリックは各執務室に備え付けの茶器でお茶を入れてくれている。


「どうぞ。急だったからお茶菓子は無いけど」

「いただきます」

 リナは、セドリックが入れてくれた紅茶を、一口飲んだ。

「美味しい」

 少し、甘い香りがしてちゃんと茶葉のコクも出てる。

 お茶の温かさもあって、人心地付いた。

 セドリックは、立ったまま紅茶を飲んでいる。

 その視線は、後ろの窓の方を向いていた。

 セドリックはこっちを向いてくれない。


「あの……」

「でもまぁ、よくサイラスがこっちに連れてきてくれたよな。こんだけ、無防備になつかれてるんだったら、俺に内緒で連れ立っていくことも出来たのに……」

 セドリックは、チラッとリナを見る。

 もう先程までの怖さは消えていた。


「セドリック様?」

「どうせ、この前のお礼とかの名目で、ホールデン侯爵家を探ろうと思ってたんだろ?」

「はい」

(バレバレだよね……やっぱり)

「サイラスと一緒だったら大丈夫って思った?」

「はい。サイラス様からも、取り込まれてもいいって事かって言われました」

 セドリックは少し驚いた。これは……また。

「サイラスにしては誠実だな」

 ちゃんと、リナを守ってくれている。


 そして、ここに連れて来たって事は、もう二度と同じ発言をリナにさせるな……と言うことか。

(サイラスも俺と同じ事をホールデン侯爵から言われてたはずだものな。クリフォードも、だけど……)

 リナ・ポートフェンを我が陣営に取り込め……と。


 セドリックはリナの前に片膝付いて座る。リナの手を自分の手で包み込むようにやんわり握る。少し冷たい、緊張してるのか。

 怖がらせないように、表情にも気を付けようとセドリックは思う。


「サイラスとホールデン侯爵家に、行ってたらどうなってたと思う?」

「あの……ごめんなさい。どうなってたかなんて、分からない……です」

「うん。分かっててやってたら、俺、本気で怒ってたよ」

 リナの方も気が付く。セドリックが、なるべく穏やかに言葉を選んでいることに。

「こ(・)の(・)場(・)合(・)の(・)取り込まれるって、どういう事かわかる?」

 リナは首を横に振る。


「多分、行ったらその日のうちに帰って来れなかったと思うよ」

(あ~、なるほど……ってまずいじゃん。いや、本当によく利用せずこっちに連れてきてくれたよ。子ども扱いに慣れすぎて、自分がそういう対象になってるって忘れてた)


「ごめんなさい」

 リナはうつむいてしまった。

 これはもう、分かって無くても、セドリックに対する裏切り行為に近い。

「こっちもその手の話、どう言って良いのか分からなくて、避けてたから……。ごめん。言わないと分からないよね」

 セドリックの口調が子どもを諭すような感じになって来ている。

 リナは、セドリックの雰囲気に戸惑ってしまっていた。だって、セドリックはリナの感情に敏感になって、自分を押さえ込んでいる。


 これは、ダメだとリナは思う。

 今はよくても、ダメになってしまうのでは無いかと、リナは自分の経験から感じとってしまった。

「それでも、セドリック様には怒る権利があると思いますが。それとも、とるに足らない子どもの所業という位置づけですか……」

 リナはわざと怒ったように言う。セドリックが怒ってくれたらいいと思って。

 セドリックの手も、離してしまった。


「そんなこと言ってるんじゃ……ないだろう?」

 リナの急な変化に、セドリックも戸惑う。

「そういう態度でしょ? だって、団長がここに連れて来たのだって、仕事の延長線上だったから。部下扱いで連れて来てくれただけですし」

 リナはプイって横を向いた。


「あ~、そういうこと。それで? リナちゃん。俺は、取るに足りない子どもだなんて1度だって思った事無いけど?」

「そうですか? 私だけがセドリック様のこと好きなんだと思ってました。まぁ、私から言い出した政略結婚なので、しかたないんですけど……」


 そう言った途端、セドリックから正面を向かされて、気が付いたらキスされていた。ふれるだけじゃ無い。ちゃんとした大人のキス。

 頭の中、真っ白になりそう。


「ちゃんと、俺も好きだと言ってるだろ」

 ボーッとして、セドリックを見てると、額と頬にキスされて……。

「まだお互い、ある程度仕事が出来るようになるまで、結婚の段取りつけれないんだから、煽らないでくれ」

「へ?」

「あのさぁ。リナちゃんの考えなんか分かるんだよ。分かってて子ども扱いしてるんだから、子どもでいてくれよ。頼むから」

 リナから離れてセドリックはドアの鍵を開けに行く。


「今回の事は、教えてなかった俺が悪い。子ども扱い以前にリナちゃんは悪くない。だから、サイラスの怒りも俺に向かってただろう?」

(そう……だっけ?)

「とにかく、つぎ何か行動を起こすときは、俺を巻き込んでくれ。俺のことを好きでいてくれるって言うのなら、ちゃんとそういう覚悟して」

「分かりました」

 セドリックから本当に、分かってるのか? って顔されたけど。

 リナにはまだ、セドリックを巻き込む覚悟なんて出来てないけど。

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