第103話 ホールデン侯爵家へのお礼 危ないからやめてくれ
「よう、リナ嬢。アボット侯に呼び出しくらったんだって? 奥様方や令嬢方の相手も大変だな」
久しぶりにサイラスの個室の方の執務室に行ったら、開口一番そう言われた。
「団長。ホールデン侯爵様にはお詫びに行ってもらってしまって。すみませんでした」
「いや、別に当然のことだろ? 自分が推薦してるんだから」
サイラスも宰相と同じ事を言う。
「あの……それでお礼と迷惑かけたお詫びに伺いたいのですが」
リナが言った言葉にサイラスは微妙な顔をした。
思惑がバレてしまったのかとリナは思ったのだけど。
「今、親父は最近までのアボット侯爵と同じで、王宮の仕事には関わってないんだよ。だから、王宮に執務室が無いんだ」
「はい。そう伺ってます」
「俺から、リナ嬢がお礼言ってた、って言っとくよ」
「え? でも……」
「あのさぁ。いくらセドリックの婚約者って言っても、宰相ともつるんでるだろ? 家まで来るのは危ないからな」
「サイラス様がいてもですか?」
サイラスが、ギョッとした顔をした。そうして、リナの顔をジッと見る。
リナの方は、なんでサイラスがそんな反応なのか、分からなかった。
「それは、俺に取り込まれても良いって事か?」
サイラスが低い声で訊いてくる。
(へ? なんでそうなる?)
リナの目の前でサイラスは思いっきり溜息をついた。
「その顔は、全く分かってないな。なんか、セドリックに同情したくなってきたぞ。ちょっと、来い」
サイラスは、リナの腕を引っつかんでズンズン歩いて行く。リナの足がもつれそうになって転けかけたときに、小脇に抱えられた。
(私、荷物じゃないんですが。なんか、ズボンはいてると、私の扱いがドンドン雑になっていく気がする)
「セドリック、いるか?」
サイラスがノックもせず、バタンと執務室の扉を開ける。
机で書類を書いてたセドリックが、怪訝そうな顔をして立ち上がった。
いや、だって自分の婚約者が他の男の小脇に抱えられてるんだからね。
「何をやってるんだよ? サイラス」
声が低くなってる。
「それは、こっちのセリフだ。こいつにどんな教育してるんだ、お前」
スルッと降ろしながら、セドリックに怒ってる。
「はぁ?」
(あ……ほら。セドリックも意味が分からないって顔してる)
「今、こいつ、俺と連れだってホールデン侯爵家に行きたいって言ってきたぞ。それとも、お前の差し金か?」
セドリックは信じられない言葉を聞いた気がした。
(何で俺がそんな危ないところに、リナを行かせないといけないんだ)
そうして、リナを見る。
「あの……」
セドリックの目にも、リナが全く事態が分かってないように見えた。
「んなわけ無いだろう」
ふぅ~と、溜息をつく。態度を改め。
「とにかく、こちらに連れてきて頂いてありがとうございます。ホールデン騎士団長殿」
「今回限りだ。二度目は無いからな」
「意味が分からないのですが」
とりあえず、リナは近くのサイラスに聞く。
「クランベリー近衛騎士副団長殿に聞いてくれ。じゃ、な」
(いや、こんな怖いところに置いていかないで……)




