第102話 子どもの戯れ言 暗殺の話
室内には、宰相の書類にペンを走らせる音だけが聞こえる。
宰相の用事は済んでるので、退出させられても仕方ないのだけど……。
セドリックも、こんな感じで入り浸ってたのかな。
リナには、セドリックが宰相とつるんでいた気持ちがよく分かる。
ここはとても居心地が良い。
「宰相様」
「ちょっと待って下さい」
宰相は、さらさらと何か書いてる。終わったので、声をかけてくれた。
「いいですよ。何ですか?」
「あの……子どもの戯言だと思って聞いて欲しいんですけど」
「場合によっては、聞かなかったことにして欲しいと言うことですか?」
「あ……はい。すみません。誰にも言えなくて」
「分かりました。どうぞ」
「アボット侯爵様って、アラン様の暗殺とか企んだりしますかね」
リナが言った瞬間。宰相の顔が少し厳しいものに変わった。
「私も王太子派なのですが」
リナに私が聞いて良いのかって言ってる。
(そうだよね、私、気抜きまくってるな。王太子派には、絶対振ってはいけない話題だったのに)
多分、リナと同じ。
アボット侯爵があの本を持っていて気付かなかったはずが無い。
リーン・ポートを生み出すのは世襲制だ。賜る方は、ランダムだが。
生み出せる人に子どもが出来無かったり、亡くなったりしたらそこで途切れる。
前例が無かったから続いているのだろうし、当初は知る人も多く、結界を維持するために大切にされてただろうから。
結界が壊れかけている今、リーン・ポートを生み出すことが出来るアランがいなくなれば……そして、真相を知る人々が口をつぐんでしまえば、この連鎖は終わる。
私の、リーン・ポートはアランに反応しているのだから。
「すみません。聞かなかったことにして下さい」
リナは下を向いたけど、宰相は気付いたかも知れない。
リナが上手く表情が作れてないことに……。
宰相がリナの横に座って、顔をのぞき込んできた。
「どうしました?」
「すみません」
リナは自分から話し出しておいて、それしか言えなくなっていた。
宰相は、ソファーに座り直して言う。
「暗殺は……必要とあらばするかも知れません。この問題に限らず……アボット侯で、無くても……です。派閥のトップなら尚更です」
さっきの話を無かったことにして、一般論として話してくれた。
「これでいいですか?」
これが宰相に言えるギリギリなのだろう。
リナはお礼を言おうとした。
「今の国王の騒動の時に、最後まで上の王子たちを生かす道を探してたのは、アボット侯なのですけどね」
「あ……ありがとうございます」
「いいえ。私のところからは、泣きながら出て行ったりしないで下さいね」
リナがアランの私室から出てきたときのことを、冗談めかして言っている。
(う~ん、あらぬ疑いが……たつのか? 友人の娘枠だよね、わたし)




