第99話 アボット侯爵からの呼び出し
しばらくは、セドリックと夜会に出て、お茶会が無ければ騎士団の訓練に顔を出して……という、日々が続いてた。
夜会以外は男装しているので楽だ。
油断してたら、ドレス入らなくなるけどね。
「司令官の礼服は子どもの遊び着では、無いと思っていたのですけどね。どういうつもりで、お茶会や園遊会に司令官の礼服で参加されているのですかな」
「申し訳ございません」
ご婦人方に請われるまま、お茶会に礼服で参加してたら、アボット候爵から執務室に呼び出しをくらった。
リナが女性なので、2人きりにならぬようにという名目で、近衛騎士たちを部屋内に待機させたままである。
こういう配慮は、徹底してるな。さすがというか、何というか……見習うべきかな、とリナは思った。
「詫びが聞きたいわけではありません。理由をきいているのです」
説明しようが無い事なので、リナは困っていた。
ご婦人方のせいにはしたくないし。
(やれやれ、怒らせるかもしれないけど。っていうか、私が聞く側でも、絶対怒るけど。性別を理由にするなんて)
「アボット候爵閣下。私は女性です。お茶会や園遊会は、出なければならない行事の1つです。しがない子爵令嬢としては、今、必死に社交界での立場を作っている所なのです。今しばらくは、お見逃し願えないでしょうか?」
「今の宰相やクランベリー公爵は、ずいぶんとお嬢さんを甘やかしてるようですな」
(ちょっと待て、怒りの矛先変えないでよ)
「私の一存でしてることなので。申し訳ございません」
「ほう?」
アボット候がおもむろに椅子から立ち上がった。
(なんか、殴られそう。えっと……奥歯くいしばるんだっけ……)
控えていた近衛騎士達が、リナの前に庇うように立ちはだかる。
(へ? なんで? あ……マーティンソン隊長だ。って事は、これ近衛第三部隊?)
「退きたまえ」
アボット侯爵が強い口調で言う。
「命令には従えません」
「それがどういう事か分かっているのかね」
「承知の上」
マーティンソン隊長もアボット侯爵を見据えている。
(あっちゃ~。まずいわ、これ)
「退きなさい。マーティンソン隊長」
リナは、厳しい顔で言った。この場で子どもの振りは出来ない。
「ポートフェン司令官殿」
「命令です。隊員を退かせ、持ち場に戻りなさい」
(頼む、言うことを聞いてくれ)
「はい」
リナの気持ちが通じたのか、各自、元の位置に戻ってくれた。
「失礼致しました」
リナは、アボット侯爵に深々と頭を下げる。
もう、どうしょうもない。一発殴られて、頭下げ続けるしか無いか。
「マーティンソン隊長。命令違反の責任はどう取るつもりかね。それとも、そこの子どもに取らせるつもりかね」
(をい)
「いえ。私の責……」
「私の部下を処罰の対象にさせませんよ」
マーティンソン隊長の言葉を遮る。
「ほう? お嬢さんは騎士団の司令官だと思っていたが?」
「その前に、近衛第三部隊の指揮権をクランベリー公から頂いてます。部下の失態は上官である私の責任です。処罰は私のみに留めて下さい。先程のお茶会の件もです」
リナはアボット侯爵をまっすぐ見据えて言う。
「貴方は、王宮に復帰されるときに国王と私が交わした3つの条件を公文書化した誓約書を見せられませんでしたか? 私の協力者や家族を何人たりとも、それこそ国王ですら処罰の対象にすることは出来ません」
「いささか、協力者の範囲が広すぎだとは思いましたがね」
「アボット侯もご存じの理由で、国力をなるべく削ぎたくないので」
「なるほど、そして貴女自身は、その全てから守られているというわけですか。クランベリー公からも、身の安全を保証されてますね」
アボット候爵は、ふ~っと、溜息をついた。
「子どもだと思って油断してましたよ。しかも、権力は仲間を守るためにしか使わない。父親そっくりだ」
「私への処罰はして下さってかまいませんよ。目に余る行動だったのでしょう?」
「ほんとうなら、1ヶ月の謹慎処分と言いたいところですが、あなたを罰したと分かったら、婦人会から抗議文が届きそうですね」
アボット侯爵は、やれやれと言いながら、席に戻った。
(1ヶ月……命令違反は、加算されなかったか)
「いいでしょう。今回はお互いご婦人方の機嫌を損ねたくないという事で、見逃しましょう」
(お互いここが落としどころか)
「寛大なご処置、有難うございます」
リナは礼を執って、アボット侯爵の執務室を退出した。




