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千年前の真実

赤い月が、 町を照らしていた。


空に開いた巨大な妖門。


そこから溢れ続ける妖気に、 町全体が悲鳴を上げているようだった。


提灯が揺れる。


妖たちが歓喜する。


『王が還る』


『封印が終わる』


『千年の悲願だ』


木乃葉は震える手を握り締めた。


夜は苦しそうに立っている。


九本の尾。


金色の瞳。


膨れ上がる妖気。


今にも完全な“大妖狐”へ変わってしまいそうだった。


それでも。


夜の視線だけは、 ずっと木乃葉を見ていた。


まるで。


最後に、 大切なものを見るみたいに。


木乃葉の胸が締めつけられる。


「夜……」


その時だった。


ゴォッ――!!


突風。


妖門の奥から、 巨大な黒い影が現れる。


無数の目。


巨大な口。


千年前、 夜と共に封印された大妖たちだった。


妖たちは笑う。


『王よ』


『人間を滅ぼせ』


『再び世界を焼け』


夜の妖気が大きく揺れる。


木乃葉は息を呑む。


夜の瞳から、 理性が消えかけていた。


銀が木乃葉の前へ出る。


「木乃葉ちゃん」


振り返る。


銀の顔は、 今まで見たことがないほど真剣だった。


その手には、 一本の刀が握られている。


古い封印刀。


銀は震える声で言った。


「……もう時間がない」


木乃葉の呼吸が止まる。


銀は刀を差し出す。


「これで九条を封じるんだ」


木乃葉は目を見開く。


「……嫌」


即答だった。


銀は苦しそうに目を伏せる。


「でも、 このままじゃ町が終わる」


「でも!!」


木乃葉の声が震える。


銀は静かに言った。


「千年前と同じだよ」


その瞬間。


木乃葉の中で、 何かが弾けた。


記憶。


完全な記憶。


炎。


崩れる都。


人々の悲鳴。


暴走する夜。


そして。


紗月。


赤い着物を纏った少女が、 泣きながら夜を抱きしめていた。


『お願い……!』


夜は血まみれだった。


理性を失いかけている。


それでも。


紗月を見る目だけは、 優しかった。


周囲では陰陽師たちが叫んでいる。


『早く封じろ!!』


『この妖狐を消せ!!』


『都が滅ぶ!!』


だが。


紗月は震えながら叫んだ。


『嫌!!』


周囲が凍りつく。


紗月は夜を抱きしめたまま泣いていた。


『この人は、 悪くない!!』


陰陽師たちが怒鳴る。


『騙されるな!!』


『妖に心などない!!』


その時。


夜が掠れた声で言った。


『……紗月』


紗月が顔を上げる。


夜は苦しそうに笑った。


『封じろ』


紗月の瞳から涙が零れる。


夜は震える手で、 紗月の頬へ触れた。


『お前が生きるなら、 それでいい』


その目は、 愛しさで満ちていた。


紗月は泣き叫ぶ。


『嫌!!』


『一人にしたくない!!』


だが。


夜は優しく笑った。


『お前は優しいな』


その瞬間。


陰陽師たちが術を放つ。


夜の身体へ、 無数の鎖が突き刺さる。


紗月が悲鳴を上げる。


『やめて!!』


夜は苦しそうに息を吐く。


それでも最後まで、 紗月を見ていた。


『次の生でも』


金色の瞳。


優しい声。


『必ず、 お前を見つける』


封印が閉じる。


紗月の絶叫。


そして――。


記憶が途切れた。


木乃葉はその場へ崩れ落ちる。


涙が止まらない。


違った。


紗月は夜を裏切ったんじゃない。


守ろうとしていた。


夜を、 消させないために。


木乃葉は震えながら顔を上げる。


夜がこちらを見ていた。


苦しそうな顔。


泣きそうな目。


木乃葉はようやく理解する。


この人は、 千年前からずっと。


自分を守ろうとしていた。


胸が痛い。


苦しい。


愛しい。


木乃葉は立ち上がる。


銀が叫ぶ。


「木乃葉ちゃん!」


だが木乃葉は刀を受け取らない。


真っ直ぐ夜を見る。


夜は掠れた声で言った。


「……思い出したか」


木乃葉は涙を流しながら頷く。


夜は小さく笑った。


悲しい笑みだった。


「なら、 わかるだろ」


夜の妖気が膨れ上がる。


空が揺れる。


妖門がさらに開く。


夜は苦しそうに言った。


「俺は危険だ」


木乃葉は首を振る。


「違う」


夜の瞳が揺れる。


木乃葉は泣きながら言った。


「あなた、 ずっと一人で苦しんでただけじゃん」


夜の呼吸が止まる。


木乃葉は続けた。


「怖かったよね」


涙が溢れる。


「誰にも信じてもらえなくて、 一人だったんだよね」


夜は何も言えない。


その目が、 わずかに震えていた。


木乃葉は笑う。


泣きながら。


「だから今度は、 私が隣にいる」


その瞬間。


夜の妖気が大きく揺れた。


まるで。


凍りついていた心が、 少しだけ溶けたみたいに。

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