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夜の風景  作者: 暗中光
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第2章: 雪の約束

第2話 – 3ページ目


午前8時14分。


雪は、弱まっていた。

さっきよりもずっと軽く、空がゆっくりと自分を空にしているだけのように。


ミヤとイロは、並んで歩いていた。

あいだにはまだ距離があったけれど、朝一番のあの距離ではなかった。


ミヤはマフラーに手をやった。

無意識にそれを触っている。まだそこにあるか、確かめるように。


その香りは、まだ残っていた。温かく、素朴で。コーヒーのような。


イロは、彼女の方を見ないまま言った。


「今日は、なんだか重そうだな。」


ミヤは、少し間を置いた。


息を吐いた。


「たまに、こうなるの…人がいても、ちょっと離れてたくなる。」


イロはうなずいた。


「わかる。」


そして、シンプルに、まっすぐに言い添えた。


「でも、わかっててほしい。俺はここにいる。君が何も言わなくてもな。」


ミヤは、うつむいた。


まつげに、雪がひと粒、のっていた。


静かに言った。


「イロ…ありがとう。」


言葉は完璧じゃなかった。感情も、そうだった。


でも、本物だった。


数歩歩いて、イロは速度を落とした。


「ちょっと、座らないか?」


ミヤは、顔を上げる。


「…うん。」


ベンチに腰を下ろした。


雪が木の上に積もっている。でも、誰も払おうとはしなかった。


ミヤは空を見上げた。


白かった。果てしなく。


「雪って…音を消すんだね。」


イロは、両手をポケットに入れたまま言った。


「ああ。なんでもかんでも、静かにする。」


ミヤは、ほんの少し笑った。


「人間も、そうなれたらいいのに。」


イロは、彼女を見つめた。


「君は、そうだよ。今までも、そうだった。ただ、気づいてなかっただけだ。」


ミヤは、彼の方に向き直った。


この時は、何の言い訳もしなかった。


ただ、聞いていた。


風が、少し強くなった。


マフラーの上に、雪が降り積もる。


ミヤは手を伸ばして、そっとそれを払った。


「このマフラー、返すね。」


イロはすぐに言った。


「いいよ。」


ミヤは、間を置いた。


それから、ごく自然に言った。


「じゃあ、しばらく貸しとく。」


イロは、微笑んだ。


「前も、そうしたよな。」


また、静けさが戻ってきた。


でも、その沈黙は、重くはなかった。


ただ、そこにあった。

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