第2章: 雪の約束
第2話 – 2ページ目:マフラー
午前8時02分。
冷たい風が、濡れて白くなった街路を吹き抜けていく。雪はまだ完全には積もってはいなかったが、空気は重く、ひんやりとしていた。
イロとミヤは、並んで歩いていた。
近すぎず、遠すぎない距離で。
雪がミヤの髪に降り積もり、すぐに溶けていく。彼女は気にしていない様子だったが、少し強張ったその肩を見れば、寒さを感じているのがわかった。
イロは、しばらく彼女を横目で見ていた。
そして、言った。
「寒くないか?」
ミヤは彼の方を見ずに答えた。
「平気。」
だが、その声は、彼女が望んだほど強くはなかった。
イロはそのまま歩き続け…
突然、立ち止まった。
ミヤが振り返る。
「どうした?」
イロは自分のマフラーに手をかけた。
ゆっくりとそれを外す。
分厚い、青色のマフラーだった。
「ちょっとだけ、うつむいて。」
ミヤは、ほんの少しだけ眉を寄せた。
「何のために?」
イロは答えなかった。ただ、彼女を見つめた。
ミヤは、ため息をついた。それから、少しだけ身をかがめた。
イロはマフラーを、そっと彼女の首に巻きつけた。
ゆっくりと。正確に。急がずに。
まるで、何度もそうしてきたかのように。
マフラーの温もりが、彼女の冷えた肌に広がっていく。
ミヤは、一瞬、言葉を失った。
イロが言った。
「これでいい。風邪ひくな。」
ミヤは何かを言いかけたが、最初は言葉が見つからなかった。
それから言った。
「あなたは? 寒くないの?」
イロは肩をすくめた。
「慣れてる。」
そして、ごく自然に言い添えた。
「君は、頑固すぎるんだ。病気なんて、似合わない。」
ミヤは、今回は笑った。
短く、確かな笑顔で。
「イロ…ありがとう。」
イロは、ただ言った。
「いいってことよ。」
数歩、歩いた。
ミヤは、自分の手でマフラーに触れた。
それが本物かどうか、確かめるように。
ほのかに香る、何かの匂い――
コーヒーと、木の香りの間のような。
なぜかはわからなかったが、心が落ち着いた。
スマホが震えた。
ユカからだった。
彼女は一瞬躊躇したが、電話に出た。
「もしもし?」
向こうからは、賑やかな声が聞こえてくる。
「ミヤ! どこにいるの? 新しくできたカフェに行くけど、一緒に行こうよ!」
ミヤは、イロの方に目をやった。
彼は少し前を、静かに歩いている。
「今は、無理。」
別の声が聞こえた。
「最近、変わったよね。何か隠してるんでしょ?」
ミヤは、そっと息を吐いた。
「隠してなんかない。ちょっと忙しいだけ。」
ユカの声が、少しだけ真剣なものに変わる。
「前は、そんな風じゃなかったよ…」
ミヤは遮らなかった。ただ、言った。
「今は、説明する気分じゃない。また後で話す、いい?」
間。
それから、短い返事。
「…わかった。」
通話が切れた。
ミヤはスマホを下ろした。
その手は、まだマフラーの上に置かれたままだった。
イロが振り返る。
「大丈夫か?」
ミヤは、少し考えてから言った。
「うん…ただ、変わってるだけ。それだけ。」
イロは、何も言わなかった。
ただ、彼女の横に並んだ。
そして二人は、しだいに白く染まっていく通りを、静かに見つめていた。




