「落ち葉の約束」
第4話 – 7ページ目:答えのない夜
同じ夜 – ホテルの裏庭
秋の空気は、さらに冷たくなっていた。
パーティーの音楽が遠くから聞こえる。しかしここ、紅葉の木々に囲まれた場所では、ただ風にそよぐ落ち葉の音だけが聞こえていた。
ミヤは、石のベンチに腰を下ろしていた。
手を膝の上に置いているが、まだ少し震えていた。
彼女は、そっと呟いた。
「なんで……。」
数分前の光景が、何度も何度も頭の中で繰り返される。
イロの腕に絡めたサクラの手…
彼女の静かな微笑み…
そして、イロの沈黙。
彼女は、目を閉じた。
もう、考えたくなかった。
その頃、ホールの向こう側…
イロは、人混みの中を早足で歩いていた。
「副社長、乾杯が始まります。」
一人の幹部が、彼の行く手を遮った。
イロは、彼に一瞥もくれなかった。
「後で行きます。」
彼は、そのまま通り過ぎた。
彼の頭の中は、ただ一人のことで満たされていた。
ミヤ。
数分後
イロは、裏庭へと足を踏み入れた。
彼の視線は、木々の間を必死に探す。
「ミヤ!」
返事は、なかった。
彼は、さらに数歩進む。
ベンチは、空っぽだった。
そこには、ただ数枚の黄色い落ち葉が、風に舞っていた。
彼は、遅すぎた。
その頃 – ホテルの出口付近
ミヤは、静かに階段を下りていた。
夜の風が、彼女の頬を冷たく撫でる。
彼女のバッグの中で、スマホが震えた。
画面が光る。
イロ
数秒間、彼女はその画面を見つめていた。
呼び出し音は、まだ続いている。
しかし――
彼女の指は、静かに通話拒否のボタンを押した。
呼び出し音が、途切れた。
数秒後、再びスマホが震える。
今度は、メッセージだった。
「お願い。話だけ聞いて。」
ミヤは、それを読んだ。
そして、画面を消した。
スマホをバッグの中にしまい、彼女は呟いた。
「今は……無理。」
ホールの中で
イロは、スマホの画面を見つめていた。
返事は、なかった。
彼は、そっと息を吐いた。
その時、コバタが彼の隣に立った。
「副社長。」
イロは、顔を上げずに言った。
「……なんだ。」
コバタは、一瞬沈黙した。
「大丈夫ですか?」
イロは、苦い笑みを浮かべた。
「全然、大丈夫じゃない。」
初めて――
誰もが「静かで、揺るぎない男」と知る、白鷺グループの若き副社長は、
たった一つの誤解の前で、完全に無力であることを感じていた。
その夜…
二人は、同じ秋の空の下で、それぞれの場所にいた。
一人は、眩しい光に包まれたホールの中。
もう一人は、黄色い落ち葉の散らばる、静かな街角に。
彼らの距離は、たった数キロだった。
しかし、その間に横たわる沈黙は――
どんな距離よりも、大きく、深かった。
続く…




