「落ち葉の約束」
第4話 – 6ページ目:すべてを壊した出会い
夜 – ホテルの大広間、数分後
音楽が会場に流れ続けていた。
客たちの笑い声、クリスタルグラスの触れ合う音、シャンデリアの温かな光が、この豪華な空間を満たしていた。
しかし、ミヤにとっては――
すべてが、息苦しく感じられ始めていた。
彼女はそっと息を吐いた。
ただ、この喧騒から、ほんの数分だけ逃れたかった。
彼女は静かに人混みをすり抜け、庭へと続く人気のない廊下へと歩いていった。
冷たい秋の風が、半開きの窓から流れ込み、彼女の頬を優しく撫でた。
その時――廊下の角で、彼女は誰かとぶつかった。
小さなバッグが、彼女の手から落ちた。
「あっ、ごめんなさい!」
彼女はかがんで、バッグを拾おうとした。
同時に、向こう側の人物もかがんだ。
一瞬、彼らの手が触れ合った。
ミヤは顔を上げた。
息が止まった。
目が、驚きで見開かれた。
「……イロ?」
イロもまた、驚きで固まっていた。
しばらくの間、二人はただ見つめ合っていた。
まるで、この再会を予期していなかったかのように。
「……ミヤ?」
彼の声は、静かで、信じられないといった様子だった。
ミヤは、まだ信じられなかった。
濃い紺色のスーツに、濃いネクタイ、襟元の金色のエンブレム――
彼は、あの穏やかなカフェの青年には、もう見えなかった。
震える声で、彼女は言った。
「あなた…ここにいるの?」
イロが一歩前に出る。
「ミヤ、違う。ちゃんと説明するから――」
しかし、彼が言い終わる前に――
廊下に足音が響いた。
「イロ。」
サクラだった。
濃い藍色のイブニングドレスに、まとめられた髪。
その口元には、静かだが、どこか勝ち誇った微笑みが浮かんでいた。
彼女は迷うことなく、イロの隣に立ち、その腕に自分の手を絡めた。
そして、親しげな口調で言った。
「みんな待ってるよ。行こう。」
イロは、自分の腕を引こうとした。
「サクラ、違う――」
しかし、その時サクラは、ようやくミヤに気づいた。
彼女の視線が、一瞬ミヤの顔に留まった。
そして、かすかに微笑んだ――ミヤにとっては、優しさというよりも、勝利のように見える微笑みを。
ミヤは、凍りついていた。
「……サクラ?」
彼女の声は、かろうじて聞こえるほどだった。
彼女の頭の中では、何千もの考えが渦巻いていた。
サクラ…
イロ…
このパーティー…
そして、「白鷺グループ」の副社長という肩書き…
すべてが、彼女の中で歪んでひとつになった。
彼女の心は、重く沈んだ。
イロが、もう一歩前に出る。
「ミヤ!違うんだ。本当に――」
しかし、ミヤは静かに首を振った。
彼女の目は、もうイロを見ていなかった。
ただ、言った。
「……もういい。」
その声は、大きくもなければ、怒っているわけでもなかった。
ただ、疲れ切っていた。
あまりに疲れていて、説明を聞く気力さえも残っていなかった。
彼女は背を向けた。
その歩みは遅かったが、一歩ごとに何かが彼女の中で壊れていくようだった。
イロは、彼女を追いかけようとした。
「ミヤ!」
しかし、その時、数人の会社の幹部たちが彼に近づいた。
「副社長、お時間です。」
イロは、一瞬、迷った。
彼の視線は、遠ざかっていくミヤに固定されていた。
彼の手は、無意識に握りしめられた。
唇が、ただ一言、動いた。
「……くそ。」
そして、ミヤは――
一度も振り返ることなく、
群衆の中へと消えていった。
続く…




