第2章: 雪の約束
第2話 – 14ページ目:その夜
午後8時47分。
雪は上がっていた。
しかし通りはまだ白く、まるで夜が自分を片付けるのを忘れてしまったかのようだった。
街灯の光がアスファルトの上に落ち、壊れた影を伸ばしていた。
ミヤは、静かに歩いていた。
青いマフラーを少しだけきつく巻き直す。
彼女の心は、不思議なほど軽かった。
疲れからではない――静けさのようなものから。
「サクラに…謝った。」
「うまく言えたかは…わからないけど。」
「でも…少しだけ軽い。」
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カフェの前
立ち止まる。
一瞬、息が詰まった。
中から、曇ったガラスの向こう側――
サクラが座っていた。
そして、その向かいには――
イロ。
カウンターの中ではない。
仕事中でもない。
座っていた。
時間を持て余している誰かのように。
そこに見知らぬ者ではない誰かのように。
ミヤは、中に入らず、ただ見つめていた。
唇の動き…
笑顔…
間の取り方…
声は聞こえない。しかし、その情景は明確だった。
イロは微笑んでいた。
これは、いつもの彼の微笑みとは違った――より温かく、より開かれた。
サクラもまた…
いつもの無表情のままでいた。
しかし、その目は…
少しだけ、開かれていた。
ミヤは、一歩、後退した。
恐怖からではない。
名前もつかない、何かから。
「今は入らない方がいい。」
しかし、胸の何かが言った。
「でも見ていたい。」
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カフェの中
サクラは、そっとカップを机の上に置いた。
立ち上がる。
「じゃ、帰る。」
イロも立ち上がった。
「送る。」
サクラは、少しだけ手を上げた。
「いい。慣れてる。」
イロは、ただ彼女を見つめた。
「無理するな。」
サクラは、何も言わなかった。
ドアを開けた。
――そこに、ミヤがいた。
立ち止まった。
しばらくの間。
驚きもなく、微笑みもなく。ただ、見つめるだけだった。
「見てた?」
ミヤは、静かに答えた。
「見てただけ。」
サクラは、間を置いた。
それから、短く言った。
「そう。」
そして、去っていった。
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カフェの中へ
ミヤがドアをくぐる。
コーヒーの香りと、温かさが彼女を包み込んだ。
イロはカウンターの中に立っていた。
カップを静かに並べている。
「イロ…」
イロは顔を上げた。
ミヤの目を見て、何かを察した。
「サクラと…知り合い?」
イロは、手をカップから離した。
しばらくの沈黙。
「…昔から。」
それ以上は、何も言わなかった。
そして、それだけで――
十分すぎるほどだった。
一つの問いが、ミヤの心の中に静かに腰を下ろした…
音もなく。
まだ形になることなく。




