表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の風景  作者: 暗中光
12/16

第2章: 雪の約束

第2話 – 11ページ目:本屋での偶然


午前10時47分 – 翌日。


昨夜からの雪がまだ残っている。

通りはまだ白く、朝の光がその上を滑るように輝いていた。


ミヤが書店に入る。

入り口の小さなベルが鳴り、再び静けさが戻った。


中は暖かかった。紙と木の香り。


彼女は棚の間をゆっくりと歩いた。

特に急いではいなかった。


彼女の足は、無意識のうちに一つの場所へと向かっていた――

詩集のコーナーへ。


---


午前10時52分


ひっそりとした片隅。


窓から差し込む光が、本の表紙に柔らかく落ちている。


ミヤは棚の間を静かに歩き、指を何冊かの背表紙にそっと這わせた。しかし、どれも手に取ることはなかった。


そして、立ち止まった。


誰かがいた。


---


イロが、「現代詩人」の棚のそばに、床に座って本を開いていた。

グレーのコート。

そして、マフラーはしていなかった。


ミヤは、そっと息を吸った。

数歩、近づく。


「…また会ったね。」


イロが顔を上げる。


彼の目が、一瞬、止まった。


「…ミヤ。」


彼は微笑んだ。

驚きからではなく、むしろ認めるように。


本を閉じ、立ち上がった。


「何してる。」


「なんとなく。」


間。


「歩いてたら、入っちゃった。」


イロは、ちらりと棚を見た。


「詩、読む?」


ミヤは、少しだけ間を置いた。


「…たまに。」

「まだ、よくわかんないけど。」


イロは何も言わなかった。

ただ、手を棚に伸ばした。


何冊かをめくり、一冊を引き抜いた。

何の説明もなく、ミヤに差し出した。


「これ。」


ミヤは、表紙を見た。

「夜景座生まれ / 最果タヒ」


彼女の目は、「夜景」という文字に留まった。


静かに繰り返す。


「夜景…」


本を開いた。

数行を読んだ。静かに。


もう一度読んだ。


そして、閉じた。


「…いいね。」


イロは、少しだけ肩をすくめた。


「言葉がいい。」


間。


「夜景ってさ。」


彼の視線が、一瞬ミヤに向いた。


「暗い中に光がある感じ。」


とても短く、付け加えた。


「あんたみたいだ。」


ミヤは、何も言わなかった。

ただ、彼から視線を外した。


本を、少しだけ強く握りしめた。


「これ…買う。」


イロが手を差し出した。


「貸して。」


ミヤはためらったが、本を渡した。


イロはレジへ向かった。

何の説明もしない。

ただ支払った。


---


書店の外


空気は、より冷たかった。

雪はまだ降り続いている。


イロは紙袋をミヤに差し出した。


「はい。」


短い間。


「プレゼント。」


ミヤは袋を受け取った。

その上に、しばらく視線を落としていた。


「…イロ。」


「ん。」


「ありがとう。」


イロは手をポケットに入れた。


「読んだら教えて。」

「どうだったか。」


ミヤはうなずいた。


「うん。」


---


数歩、離れた。


そして、立ち止まった。


振り返る。


イロは、まだそこに立っていた。


ミヤは手を上げた。


振った。


イロも手を上げた。


---


雪が、静かに二人の肩の上に降り積もる。


そして、ミヤの手の中には――

「夜景」という言葉を宿した、一冊の本があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ