第2章: 雪の約束
第2話 – 10ページ目:雪の夜の問い
午後9時47分。
カフェの明かりが、ひとつまたひとつと消えていく。
イロが鍵を回し、外へ出た。雪が、静かに彼の肩の上に降り積もる。
タクミが彼の隣に立ち、灰色のマフラーをきつく巻き直した。
「イロさん、今日はありがとうございました。少し緊張しました。」
イロは、ちらりと彼を見た。
「大丈夫。そのうち慣れる。」
二人は並んで歩き出した。
雪の上に残る足音だけが、その間の沈黙を埋めていた。
タクミは、しばらく黙っていた。それから、静かに言った。
「さっきの女の子…閉める前に来てた。」
イロの視線は、変わらず前を向いたままだった。
「知り合いなんですか?」
沈黙。
数歩。
それからイロは、静かに言った。
「ああ。」
それだけだった。
タクミは少し間を置いて、続けた。
「なんか…あの子を見る時、目が違いました。」
イロが立ち止まる。
冷たい風が吹き抜けていく。
雪が、彼のまつげにひと粒、舞い降りた。
「…どう違う?」
タクミは、しばし考える。
「他の人の時より…柔らかいです。」
イロは、何も言わなかった。
ただ、再び歩き出した。
タクミも隣に並んだが、もうそれ以上は何も聞かなかった。
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駅が近づく。
タクミが立ち止まる。
「お疲れ様でした。また明日。」
「ああ。気をつけて。」
彼は去っていった。
イロは、一人になった。
雪は、さらに静かに、細かく降り続いている。
通りは、がらんとしていた。
彼の心の中で、一言が静かに繰り返される。
「柔らかい…か。」
間。
ミヤの姿が、かすかに浮かんだ。
完全でもなければ、はっきりともしていない。
ただ、一つの眼差し。
そして、まだ名前のついていない、一つの感覚。
イロは両手をポケットに突っ込み、静かに歩き続けた。
「…気のせいじゃないな。」
そして、彼は歩き続けた。




