第2章: 雪の約束
第2話 – 9ページ目:家、母、そしてミヤの想い
午後6時23分。
雪がミヤの肩の上で溶けていく。
帽子を脱ぎ、そっと玄関の脇に置いた。
居間からテレビの音が聞こえていた。料理番組。いつものように。
母はソファに座り、緑茶を飲んでいた。ミヤが入ってくると、顔を上げた。
「ミヤ、おかえり。」
「ただいま。」
ミヤは靴を脱いだ。
母が、穏やかな声で言った。
「遅かったね。」
「うん…ちょっと歩いてた。」
短い間。
「雪、きれいだったから。」
母は、そっと湯呟みを机の上に置いた。
「友達と?」
「うん。」
「どこ行ってたの。」
ミヤは、しばらく黙っていた。それから、ごく自然に肩をすくめた。
「街のほう。歩いて、話してただけ。」
「ふうん。」
母の声は、問い詰めるようなものではなかった。ただ、何かを確かめるような、そんな眼差しだった。
数秒の沈黙。
それから母が、静かに言った。
「なんか、最近ちょっと違うね。」
ミヤは、青いマフラーに手を触れた。少し間を置いた。
「…そうかな。」
「うん。」
母は、ごく小さな微笑みを浮かべた。
「悪い意味じゃないよ。」
ミヤは、少しだけうつむいた。
「…大丈夫。」
説明もせず。否定もせず。
ただ、そう言った。
母は、再び茶碗を手に取った。
「言いたくなったらでいいからね。」
「うん。」
間。
「ありがとう。」
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ミヤは自分の部屋へ向かった。
ドアを閉める。
ベッドに腰を下ろした。
青いマフラーは、まだ外していなかった。まるで、まだ一緒にいたいかのように。
窓の外を見る。
雪が、静かに降り続いていた。
そして、彼女の心の中に――音もなく――ひとつの小さな想いが浮かんだ。
「今日…ちゃんと生きてた気がする。」




