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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
征西へ

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151 摂政挟撃計画

「それで、鷹の処分の方法は決まったのか」


 俺と話しているうちに、またヤドリギの表情はいつもの冷静なものに戻っていた。


「いえ、なにぶん重要なことですので。それに、鷹を処分したあとの、戦後処理で陛下と前王は真っ向から利害が対立します。そこの調整にてこずっているようです」


 俺は声を出して笑いたくなったが、そこはこらえた。

「この期に及んで、起きてもない未来の利益のために、時間を消費する。なんとも王族というのは優雅で呑気なものだな」

 その優雅さのためにお前たち王家は滅ぶのだ、そう思った。


「ただ、現状からして、海峡に近い数県を前王に譲ることで、決着とするのかと思います。あるいはさらに前王が譲歩して、巨島部のみを別の国とするか、いずれかでしょう」

 ヤドリギはさらに続ける。伝えないといけないことが多いせいで、饒舌な人間に変わったようだった。

「前王と向こうの領主は自分たちに危機が迫っているとひしひしと感じているでしょうから、その危機を回避できるなら妥協もやむをえないと考えるかと」


「そうか。ちなみに陛下を焚きつけた者たちの名前はわかるか?」

 ヤドリギは数人の王の取り巻きの名前を出した。いずれも取り巻きとしての価値しか持たない者たちだ。なにせ王都の行政権は俺の息がかかった役人が握っている。王の取り巻きが甘い汁を好きなだけ吸える時代ではなくなっている。


「連中からしたら、俺はうっとうしいだろうからな。だが、結果として、正しい注意勧告ができているではないか。取り巻きとしては合格点だ」

 俺をこのまま信用して、ハッセにゆっくりしていろと言っていたら、それはどうしようもないバカだ。


「陛下も最初は耳を貸そうとはしませんでした。あまりその可能性を考えたくなかったようです。ですが――」

「俺の占領地政策を見ていて、恐怖を感じはじめたということか」

 将軍が現地で好き放題にやることぐらいは昔からのならいだ。俺だけが極悪人なわけではない。戦時下で権力を握っていないと、敵と戦うこともできない。いわば、必要悪だ。


 もっとも、それで俺の勢力下に入る土地面積が王都の過半に達しているとなると、話は違う。


 マチャール辺境伯のタルシャと、前王派を駆逐しているソルティス・ニストニアが俺の側につくのがほぼ確実な情勢では、今の王であるハッセの影響力が及ぶ範囲はごくごく小さい。


 もし、前王派が消滅して、巨島部まで俺が直接支配を行ったら、大義名分など何もなくても、兵を出して、王都を陥れることが可能になる。それだけの力になる。


「わかった。ただ、鷹は好きなように空を羽ばたくことができる。手から放してしまった時点でもう遅いぞ。鳥籠に自分から戻る鷹はいないだろう」

「マウスト城にいらっしゃる奥方様たちとお子様たちはどうなされます?」


 その言葉に俺の表情も少し固まった。

 知らないうちに自分のことだけ考えていた。たしかにヤグムーリ城がすぐに落ちることはないだろう。王都から遠すぎる。守りも強靭だ。


 だが、かなりの数の兵が抜け出ている今、マウスト城のほうの守りは弱い。

 しばらく、俺は沈黙していた。


「もし、挟み撃ちが現実になったら、前王派の軍隊は海峡を渡って、攻め寄せてくる。となると、ここから離れると一気に前王派に土地を取られる……」

 まるで自分を納得させるためであるかのように言葉を紡いだ。


「マウストに戻ったとしても、挟まれている間にハッセを殺すわけにはいかない。そしたら、俺を逆賊だとする者がさらに蜂起しかねない……。かといってハッセを幽閉するだけでは、その間に勢いづいた前王派とぶつからないといけない分、不利だ……」


 王になるための最善の方法はなかば決まっていた。

「マウスト城に戻る前に俺が巨島部に渡るべきだ……」


 その間にマウスト城がどうなるかは考えたくなかった。

 戦場の常識に照らせば、女を殺すことはないはずではある。しかし、俺が逆賊ということになっていれば、逆賊の妻だ。どういう扱いを受けるか、不安な部分はあった。


「妻たちに手紙を送る。マウスト城が攻められるかもしれないと。場合によっては降伏してもいいと伝えておく」

「御意にございます」

「ただ――しばらくは戦ってくれとも書いておく。フルールにセラフィーナ、腰抜けの兵に攻められても守り通せるぐらいの才はあるさ」


 最後に俺は軽口になった。

 それはなかば祈りに似ていたが、俺の本心でもあった。

 存外、彼女たちなら、当主代行として采配を振るえるとでも言って喜んだりするんじゃないだろうか。


「巨島部に渡る準備を進めておく。ソルティスにも連絡を入れてくれ。ケララが支配している土地でも反乱が起こるかもしれないし、俺の電撃作戦で前王派を撃破するのが一番効率がいい」


 一度、守りに入ったら、そのまま付け入る隙を与えることになる。ここは攻撃の手をゆるめてはいけない場面だ。


「承りました。どうか、摂政閣下の武運が開けますように」

「ヤドリギ、ラッパのお前は祈らなくていい。現実だけに向き合ってくれ」



 すでにヤグムーリ城の準備はできているが、ここでゆっくりしている時間は結局、取れそうにない。

 いずれ、ハッセとも戦うことになるとは思っていたが、前王と手を結ぶことはあまり考えていなかった。そこまでなりふりかまわないというのは予想外だった。


 マウスト城からはすぐに返書が来た。

 妻の名前が順番に書かれてある。基本の内容は同じで、自分たちのことは心配するなというものだ。

 ただ、セラフィーナのところだけ少し違っていた。


 絶対にこの城は落とさない。梟雄の娘としてむしろ王都を落としてやると書いてあった。

「まったくセラフィーナらしいな」

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