150 新生ヤグムーリ城
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まず、行ったのは何よりも濠を掘ることだった。
ヤグムーリ城は川のそばに建ってはいたが、その川はたいした深さも広さもなかった。そこで、城の位置自体を下流のほうに少し動かし、川自体も掘り下げることにした。付近のほかの川も流路を付け替えて、城の横を流れる川に合流するようにした。
とはいえ、こんなことは誰でも考えつくことだ。オダノブナガの知識も必要ない。
川が大きくなってきたら、巨大な石を船で持ってこさせた。それを集めてどんどん石垣をこさえていく。
最初、この計画にはラヴィアラが無理だと主張していた。
「アルスロッド様、石は順調に集められても、石工の数が足りませんよ。石をきれいな四角にするには、どうしたって時間がかかりますから……」
「ラヴィアラ、石を平たくする必要はないんだ。それでも丈夫な石垣は作れる」
「えっ? どういうことですか?」
「これはラヴィアラよりも石工に話したほうがいいんだけどな」
オダノブナガの知識の中には石垣に関するものもあった。
その石垣はなんとも奇妙なものだった。ごつごつした石をそのままどんどん積み重ねているのだ。今にも崩落しそうだが、巨石と巨石の間には小さな石がはさまり、まるで接着剤のような役割を果たす。
それで三ジャーグほどまでの高さまでは石を積み上げられる。石の組み方にはコツがあるが、最低でも俺はそれをオダノブナガの知識で把握していた。
ということは、オダノブナガは石の積み方の次元で興味を抱いていたということだろう。そうじゃなきゃ、そんなことは石工に任せっぱなしにしていそうなものだ。
――ワシが近江に侵攻した時、そこで見事な石垣をいくつも見た。六角の観音寺城を落とした時も優美な石組に感動すら覚えた。近江は比叡山お抱えの穴太衆もいたし、石に関する考えがはるかに先行していた。
オダノブナガは説明が好きだ。ある種、子供のようになんにでも興味を持つ。そして、それをほかの誰かに披露したがる。披露される対象は俺しかいないが。
――ワシは思った。この石を高く、高く積んでいけば土塁よりもはるかに頑丈な城が作れると。土でできた土塁はどうしても経年劣化で低くなったり、角度が丸くなってきたりする。だが、石ならそそり立つ塁が作れる。何度も直角に曲がるしかない通路を城の中に用意できる。敵を殲滅する、とても落としようのない城ができると思った。
お前の考えはぜひとも採用させてもらう。たしかに石で固められた城を見たら、敵兵も意欲を失うよな。
俺は石垣について得た知識をラヴィアラにそのまま伝える。ラヴィアラは半信半疑だったが、できはじめてきた石組みを見て、俺が言っていることが正しいと理解したらしい。
それは石工たちも同じだった。小さな石をくさびのように入れ込んでいくことで、大きな石は動かなくなる。石を磨くような時間は大幅に短縮される。
「本当に石が動かなくなっています……。しかもこの高さの壁がずっと続いていたら……とても城の中心部まで攻め込めませんね」
ラヴィアラは石を触りながら、石垣を見上げていた。
「しかも、この上に弓兵や鉄砲兵が立てば、敵を容赦なく撃ち放題ですね」
「さすが、ラヴィアラだ。そのとおり。好きなだけ敵の脳天を撃ち抜いてくれ」
この城は敵を殺し尽くすための迷宮みたいなものだ。この中に入っていれば、枕を高くして眠れるだろう。
「それでも、もしも本当にピンチになったら、横の川に船を下ろしてそれで逃げる。今後、この城が征服の拠点になることまでは間違いない」
「本当によくできていますね。ですが、なによりも驚くべきは……着工して一か月ほどしかまだ経っていないことです……」
そう、築城の速度そのものが早い。これは多数の人間を使える俺の特権みたいなものだ。
「まだ戦時中だからな。三か月ほどで完成させる予定だ。一生落ちない城を作ってやる」
途中、敵の妨害などもとくになく、三か月で、新生ヤグムーリ城は完成した。
城が完成を見た日には小さいながらも控えている将たちと宴会を開いた。
すでに石が壁のようにそびえる城として、名前が広まっているらしい。白鷲隊のレイオンが教えてくれた。親衛隊たちは常に俺のそばにいる。
「もう、やるべきことはやった。このヤグムーリ城から俺は征服地を管理していく」
「遠からず、それも実現していくでしょう。ただ、懸念点があるとすれば……」
「おいおい。縁起でもねえこと言うなよ。レイオンは心配性すぎるんだ」
赤熊隊のオルクスが揶揄した。
「この城を落とせるような敵の名前が思いつくか? 懸念なんてねえよ。前王派も近いうちに攻略できるさ。それとも船に乗って海峡を渡るのが怖いか?」
「そんなことを恐れてはいない! 私だって前王派に負けるとは思っていない。だが、閣下の力が強くなりすぎれば、危機感を抱く者も出てくるだろう」
レイオンの視線は自然と王都のほうを向く。
「しかも、そのための拠点がこうも頑丈だと、最大の敵が閣下だと思う者が出てくることだってある。少なくとも、国王陛下の軍隊がこの城を落とすことは不可能だろう」
レイオンはある程度、ぼかしていたが、その意味するところは明白だった。
「だから、レイオンはおおげさなんだって。今の王様が閣下を恐れたところで、閣下を攻撃したら、閣下は前王派にくっつくだけだ。敵に回す余裕自体がねえよ」
俺は二人の親衛隊の会話にあまり首は突っ込まなかったが、もしもの時には備えておこうと考えていた。
動いてくるとしたら、思ったよりも早いはずだ。俺の支配が確立してからでは遅いと思うだろう。そう吹き込む奴ぐらいは出てくるだろう。
もしかすると、次の山場が俺が王になるための試練だろな。
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そして、ヤグムーリ城築城のあと、二週間後。
オオカミが部屋にすっと現れる。
「ヤドリギか。人の姿になってしゃべっていい」
ヤドリギが珍しく、顔に緊張感をにじませていた。それだけでよほどの重大事があったとすぐにわかった。
「国王陛下と前王が手紙のやりとりをしていることが発覚しました」
「ほう。それで前王が巨島部のほうを手放してくれるならありがたいな。ほぼ統一も成るわけだ」
「その密議の主要議題は大きくなりすぎた鷹をいかに処分するか、です」
ついに動いてきたか。
最大の敵が俺に変わったらしいな。
「鷹か。なかなかいい動物に例えてくれたな」
肥えすぎた豚と言われたら、少しむっとしたかもしれない。




