第7話 草太めっちゃ焦る!(後書き挿絵、女王陛下)
女王様に続いて王家の女性陣が入室してくる。
セラフィーちゃんは最後尾だ。
母性様(女王陛下)が優雅な仕草で玉座に座る。
奥が見えそうで見えない!
ロングスカートのスリットが実にいい仕事をしておる。
俺から向かって、玉座の右に王夫兼宰相様が立つ。
左にはプラチナブロンドの美女が立っていた。
瞳は青空色で、身体のラインを強調したロングドレス姿。
ハリウッドスターのようだ。
宰相様から教わった王家情報によると、この女性が王女様だ。
ひな壇の中段左、中央寄りには、俺より少し年上ぐらいのホンワカ系の美女。
その隣に、お人形さんのように可愛い女の子がおすましして並ぶ。
王女様の娘たちだ。
で、左端のインテリメガネ美男子が二人の父親、王女様の旦那様なのだとか。
中段右側はもちろんセラフィーちゃん!
その横でビシッと立つ筋肉達磨さんが――
驚くべきことに、銀髪美少女のお父さんだということだ!
良かったねぇ~~。
髪色以外まったく似てないよ!
第一王女であったお母さんは、セラフィーちゃんが子供の頃に亡くなってしまっていて。
それで二位だった彼女の王位継承権が下がってしまい、現在は四位なんだとか。
俺に昨日、王夫兼宰相様が直々に王室の説明をしたのは、こんな事情があったからだ。
ちょっとちょっと! 権力争いとかに巻き込まないでよ……頼んますよホント。
俺も三年前に母親を亡くしているので、その辛さはよく分かる。
母ちゃんはインターハイで連覇するほどの空手の猛者だった。
何か悪さをすると裏拳が飛んできたものだ。
当然、俺はよけた!
手加減はしているとはいえ、当たったら痛いからな。
すると次は足払いがくる。これもよける!
正拳突き、横蹴り、後ろ蹴り、間髪を入れずに次々と繰り出されるが、すべてかわす。
母ちゃんも手加減を忘れてヒートアップ!
インターハイ連覇を成し遂げた。
上段左フェイントからの十連続コンボの必殺技が炸裂!!
それも、ことごとくすり抜けた。
俺は体型はクソ親父似だが、運動神経は母ちゃんの血をバッチリ受け継いだのだ。
小柄な事もあって避けるのは得意だ。
ぜいぜいと息を切らしながらの話し合いの結果、
飯抜きの代わりに、アイアンクロ―で折檻を受けるのがデフォルトだった。
そんな猛者も……病気には勝てなかった……。
姫様も俺のように母親を早くに亡くした。
似たような境遇なのか……。
……これは――使えるんじゃない!?
「僕らお互い母なしなんだね……」
とか。
「これって運命だよね……」
とか言ったら。
セラフィーちゃんの俺に対する親近感が、爆上がりするんじゃない!?
その時、俺の脳裏に眉間に青筋を立てた、母ちゃんの顔が浮かんだ――
ち、違うんだよ母ちゃん!
死んだ親をナンパに利用しようとか、そういうのではない事も、あることも、そうっちゃ、そうなんだけども。
年頃の息子に彼女の一人もいないなんて、親として心配だろ?!
どうせ彼女ができるなら、可愛い娘のほうが母ちゃんだって嬉しいだろ!?
心のなかで訴えたが、かあちやんの顔の青筋が増えただけだった……。はあ、分かったよ。このアイデアはお蔵入りにしますよ。
あの世から、回転中段後ろ回し蹴りが飛んできたら敵わんからな。
壇上にいる王家の血を直接引く女性陣には、二つの共通する特徴があった。
一つ目は。
めちゃくちゃ美しいこと!! 美形しかいないエルフの中でも抜きん出ている。
顔立ちや雰囲気はそれぞれ違うものの、みな最高レベルの容姿だ。
パンピーエルフとはオーラの桁が違う。
二つ目は髪だ。
髪色は、銀、紺、プラチナブロンドと異なるが、光沢が真珠貝の裏やシャボン玉のような虹色に輝くのだ。
構造色というやつだ。
ただのエルフではなくハイエルフとかなのかも……?
王座に座るセクシー・クールビューティー様の唇が厳かに開かれる。
「わらわが、ナヴィア国女王。エルフィア・リ・テイル・エル・デナッ――!」
―― 噛んだ!
女王様が自分の名前を噛みましたよ!
ですよねぇ~~! 普通そうなりますよね~~!
スラスラ言えちゃうほうがオカシイですよね~~!
俺の中で女王様の親近感が爆上がりである!
「コホン……」
母性様が軽く咳払いしてから。
「わらわが、ナヴィア国女王。エルフィア―― 以下は省略す!」
(なんと!略した!)
流石女王様、威風堂々とすっ飛ばした。
「わらわのことは、エルフィアと呼ぶがよい。して虚穴人殿の名は何と申す」
何事もなかったかのように続ける女王様に、俺は答える。
「草太・田畑です。草太とお呼びください、エルフィア陛下」
BIGのくだりは言わないほうが良いと、ダンディ宰相様に釘を刺されているので。
俺の自己紹介も省略バージョンだ。
陛下がパンパンと手を叩き、指示する。
「草太殿に虚穴の腕輪を下賜する」
すると侍従さんが、大事そうに何かを抱え俺の前に来る。
艶のない黒色の腕輪がミニ座布団の上で渋い光を放っていた。
「虚穴人には虚穴が放つ波動が体内に沁みついておる。
その腕輪は虚穴の波動に反応するのじゃ。腕に嵌めてみるがよいぞ」
陛下に促され、俺は腕輪を手に取り左手をくぐらせた。
「おおっ! カッコイイ!」
俺が手を通すと黒色の腕輪の外周に真っ赤な模様が浮かび上がった。
SR-71偵察機を彷彿とさせるカラーリングと、甲骨文字あるいはルーン文字に似た絵柄が、俺の中二心をくすぐる。
指輪といい、腕輪といい、この世界は装飾系の魔道具がかなり発達しているようだ。
「うむ、草太殿が間違いなく虚穴人だと証明された。
その腕輪は、この世界でそなたの身分を保証する物じゃ、くれぐれも無くさぬようにな。
改めて草太殿を我国の正式な客人として歓迎いたす」
陛下が再びパンパンと手を叩いた。
「スキル確認の支度を」
ガラガラと音を立てて台車が運ばれてきた。
上には教室の黒板を縦にしたぐらいの石板が乗っている。
表面には隙間なく黒いビー玉のようなモノが埋めこまれ、台座には掌型のくぼみが彫られていた。
早速スキル確認か!
まあ王城イベントの鉄板だしな。
「真価の指輪を嵌めた者の、頭の中に浮かぶスキルのイメージを、他の者にも見えるようにする魔道具じゃ。
草太殿、真価の指輪は嵌めておるな?」
俺は右手を上げ薬指の指輪を陛下に見せる。
「はい、陛下。バッチリです」
それを確認し、うなずく陛下。帯に挟んであった扇子を手に取り、石板を指す。
「草太殿、台座のくぼみに指輪を嵌めた手を載せるがよいぞ。石板に其方の頭の中が映し出される仕組みであるからの」
なるほど、俺の脳内に浮かんだイメージを映像化するのか……
卑猥な想像とかしたら映っちゃうかも……
(あっ……ヤバイッ!)
今さっき拝んだばかりの――母性様――が浮かんでしまった!
(まずいって! 流石にそれはダメだって!!)
石板に、陛下のタユンタユンが映ったら洒落にならない!
イメージを消そうと、焦れば焦るほど、逆に鮮明かつ盛られてしまう。
(ちきしょうぅ~~っ!)
脳内動画の女王様がタユンタユンから、バインバインにランクUPした!
「さあ草太殿、早う手を台座に載せるのがよいぞ」
俺の現状を知らない陛下が催促してくる。
(ヤバイ! ヤバすぎる~~!!)
いったいどうすれば!??
こっ、こんな時はあれだ……まったく別の事を考えるのだ!
そうだ! 素数! 素数を数えるのだ!
(1・2・3・5・7・11・13……)
必死で素数を思い浮かべながら、牛歩戦術で石板に近づく俺。
(53・59・61……109……181……)
頭の中を高速で素数がよぎる。
真価の指輪を嵌めた右手が震える。
(頼んます~~っ! スキル映像が映ってええええええええぇぇぇぇぇ~~ッ!!)
台座に手を置く――(997!!!)
――【植物おせわ係】――
バインバインの母性様ではなく、無事に俺のスキルが映った!
(良かったあぁぁ~~っ! 助かった~ぁ~~!!)
安堵の汗がどどっと出る。全身ビチョビチョだ。
危うくエルフ国の皆さんに、俺の人格を疑われるところであった。
あらためて石板をよく見ると、
隙間なく埋め込まれた黒い玉が光って、文字を浮かび上がらせている。
電光掲示板と同じ仕組みだ。
――――――――――――――
【植物おせわ係】
「$&&、¥&%$##」
・植物の成長促進
「$&’#!%&。¥++%&’$&」
――――――――――――――
俺が今装備しているもう一つの魔道具。言霊の指輪は全大陸標準語の会話だけの対応らしい。読み書きは別のようだ。
つまり、真価の指輪で得られる俺の脳内イメージ=日本語表記になる。
それを補うために石板は、自動翻訳機能つきなのだろう。「」の中は異世界文字への変換結果と思われた。
さすが魔法テクノロジー、親切設計だ。
側に居並ぶ重鎮や官僚たちから、いっせいに落胆のため息が漏れた。
「まあこんなものか」
「農作業に役立つ程度ですな」
「賢者レベルのスキルは滅多にありませんからな」
「顔も賢そうではないですしな」
「今回の虚穴人ガチャはハズレでしたな」
とか、愚痴っている。
いやいやいやいや、あんたらのお姫様は褒めてましたよ! 俺のスキル。
それに顔は関係ないでしょ!顔は!
て、ゆーか、ガチャあんのかよ! この世界!
周りの反応とは裏腹に、俺は希望を見出していた。
「植物の成長促進」という項目が新たに表示されていたからだ。
昨日、タンポポもどきを咲かせた結果だろう。
一歩前進したのは間違いない!
「姫からの報告通り、確かに変わった名のスキルじゃのう……」
女王様が、広げた扇子で口元を隠しながらのたまう。表情は読み取れない。
「まあよかろう」
扇子がパンと閉じられる。
「さて草太殿の面倒は……これも縁よのう。
セラフィー姫に一任することとする!」
「ご命令、承りました、エルフィア陛下」
恭しく頭を下げるセラフィーちゃん。
さっきの一歩前進という感想は訂正だ!
(百歩前進だ~!! 超ラッキ~~!!!)




