第6話 エルフの国と母性様(後書き挿絵、神樹)
俺の前をエルフのお姫様、セラフィーちゃんが歩く。
長い白銀の髪と、太腿を覗かせるミニスカートが、差し込む光に揺れている。
それに合わせて俺の頭部が鼻歌混じりに揺れ動く。
後ろからは姫様の御付きの、モブフとコピフが俺に殺気を放ってくる。
気にしてもしょうがないので無視だ無視!
どうも~~草太っす。
俺は今、果樹園の木漏れ日の中を歩いてるっす。
拳大の桃色ドリル型果実、名前はドリンゴ。
ナヴィア王国では一番メジャーな果物で、一年を通して実が生るそうだ。
おそらく、ここは温暖な気候の土地なのだろう。
その洋梨に似た、旨そうな匂いに包まれて草地を進んでいる。
これからお城に向かい、そこで王様と謁見するのだ。
道すがら聞いたところによると、植物に作用する魔法持ちの場合「植物魔法」とイメージが浮かぶのが普通らしい。
俺の脳内に【植物おせわ係】と浮かんだのは、俺が別世界の人間だからか、一般的な植物魔法とは別物なのかその辺は分からないそうだ。
そうそう! それと後ろのエルフ双子の名前が本当に。
「モブフ」と「コピフ」だった!
エルフの中では古典的な名前だという。
日本だと、「太郎」と「花子」みたいな感じか。
しかしスゲーな俺、あんなテキトーに付けたニックネームが、実は本名だったとは!
無自覚系主人公の素質あるんじゃない?
果樹園を抜け、まぶしさに目を凝らす。
明るさに眼が慣れると、俺は目前の光景に感嘆の声を上げた。
「うおおーっ! でけえ~!! すげえ! でけえ~~っ!!!」
果樹園の前には橋の架かった運河、その先に野菜畑が広がり、更にその先の丘陵地を中心として、全てが左右に大きなカーブを描いて続いている。
畑の先の丘陵地は住宅街だ、赤い屋根の木造建物群が観光地の写真みたいだ。
そして丘陵地の頂上には―― 馬鹿でかいブロッコリーが立っていた。
正しくは、色や形がスーパーで売られているブロッコリーそっくりの、信じられない大きさの大樹だ。
遠近感がバグる…… 丘陵地の建物群がミニチュアの玩具に見える。
「なんじゃ? あの馬鹿でかい木は!?」
でかい、以外の感想が出てこない俺。
いやホントでかいんだって! 生で見たらみんな驚くって!
幹の太さだけでドーム球場ぐらいあるから!!
「あの大樹こそ、我がナヴィア王国を守護して下さる 神樹エルナヴィア様 だ。
その強大かつ神聖な霊力によって、魔物が居住地内に侵入することを防いで下さっているのだ」
セラフィーちゃんが両手を広げドヤ顔をしておられる。
(ウム、可愛い! 眼福、眼福)
それに…… ヤッパ魔物がいるんだ……
(スライム見たい! 餌付けとかしてみたい!)
王城は巨大ブロッコリーの根元に建てられているそうで、畑を越えて石畳の住宅街を登る。
巨大樹の根っこの一部が、地面のあちこちに露出して、大蛇の様にのたうっている。
家々はすべて木造でログハウス的な感じだ。
屋根も瓦ではなく赤い樹皮らしきものが葺いてある。
住宅を見る限り現代日本と比較して、文明レベルはやはり低いと言わざるを得ないか。
商店が並ぶ大通りに入ると一般エルフの人々で賑わっていた。
やはり皆美形だ。
仕事や買い物の手を止めたり、窓から身を乗り出したりして、セラフィーちゃんに盛んに声をかけてくる。
それに答えて手を振るお姫様、下々の者からの人気は抜群のようだ。
便乗して俺も手を振る。
「ハロー、エルフの皆さん」
んで後ろにいる俺に気付くと、誰もが一様に怪訝そうな表情になる。
完全に珍獣を見る眼である。
腕組みをしたり口元に手を当てたりしながら、ヒソヒソ話している。
コラッ!そこの鼻水を垂らしたガキんちょども、人を指さして笑うのをやめなさいっ!
「それにしても老人が一人もいないな」
俺が感想を述べると。
「何をたわごとを言っている? ちゃんとお年寄りは居たぞ」
「そうだ、長老様方も手を振っているではないか」
と、後ろのモブ・コピ・ツインズ
「草太殿、人属の中で最も長寿であるエルフ種は、歳の取り方が人種とはまったく違うのだ」
セラフィーちゃんが謎解きをしてくれる。
「エルフ種は子供の時は人種と同じ速さで成長するのだが、青年期が人種の数十倍以上長く、その後も身体はゆっくりと歳をとる。
寿命に近い晩年を迎えても、人種の老人のような姿にはならないのだ」
彼女の右手が数人で談笑している人達に向けられた。
「あそこに居るのが長老様方だ」
「ええっ? あそこの面々が……マジか!」
そこにいた美男美女数人はどう頑張っても、三十代前半の年齢にしか見えなかった。
これからが働き盛りです、という感じだ。
地球にいるアンチエイジングに命をかけている、お姉さま方が知ったら発狂すること間違いなしだ。
丘の上の門前に到着した俺はその場で上を見上げる。
まだ多少の距離があるにも関わらず、もはや緑色のそびえ立つ崖にしか見えない巨大ブロッコリー。
首が痛い。
ごく一部しか視界に入らない。
その根元は土塁と丸太の塀でぐるりと囲まれているようだ。
開け放たれたままの中央門の両側に、衛兵とツインズが並び敬礼をして姫様と俺を迎える。塀の内側が城の敷地ということで、モブフとコピフはここでお役御免らしい。
「二人ともご苦労さん、おつかれサンキュー!」
と労をねぎらったらにらまれた。
西洋ファンタジー風な石造りの城塞を期待したが、ナヴィア国城はまったくちがっていた。
屋根がやたらデカい複数のログハウスを廊下でつなげた形の宮廷だ。
神樹の緑崖を背景として、強いコントラストを生み出す木造赤屋根の館は神秘的。
これはこれでいい感じだ。
建物の中は思ったより明るかった。
壁に一定間隔で設置された四角いライトが、廊下を照らしている。
電線のたぐいはまったく見かけていないので、灯りの魔道具なのだと思う。
奥にある三十畳程の客間に通された。
そこに。
スラっとした長身で、顎髭がダンディーな、超イケ面おじ様エルフが待っていた。
襟や袖に光沢のある刺繍が施された、お安くなさそうな上着が似合っている。
「おじい様、虚穴人の草太殿をお連れしました」
セラフィーちゃんが紹介する。
「草太殿、こちらが私の祖父であり、この国の宰相でもあるデルファン・テイル・デナス・エルナヴィアだ」
「宰相? お姫様の御じい様って王様じゃないの?」
俺の口から疑問が出るとイケおじ様がと答える。
「我がナヴィア王国は代々女系国家なのだ、私は女王陛下の伴侶、つまり王夫だ。
王夫が国の宰相を兼務するのも我が国の伝統なのだよ」
なんと! そんじゃあ国のトップは女王様ってことか!
超絶美少女セラフィーちゃんと血のつながるエルフクイーン!これは期待大である。
俺に向かってダンディーな仕草で右手が差し出された。
「デルファンだ、よろしく草太殿」
笑顔が素敵だ、いい人っぽいので心の距離を縮めてみよう。
異世界にも握手という習慣があるのか、虚穴人に合わせてなのか解らないが。
俺は差し出されたイケおじの手を両手でガッチリ握り――
「この世界でBIGになる予定の田畑草太です、草太と呼んでください。おじい様……デルファン様」
やや願望が投影された挨拶をした―― うん……苦笑いされた。
その後セラフィーちゃんは女王様への報告の為に退室。
虚穴人は国の客人なので、女王様との謁見は正式なものとなるそうだ。
で、準備に一日かかるんだと。
その間、俺は宰相兼王夫様からじきじきに、守るべきマナーや、王室のことや、会場にくる偉い人とかの、もろもろを教わったのだった。
宰相ってひょっとして暇なのか?
―― 翌日 ――
宮廷内にある体育館ほどの建物が宮殿だ。
謁見会場である玉座の間がある。
壁に何枚も飾られてる大きなタペストリー。
高い天井から吊るされた、薔薇っぽいデザインのシャンデリア。
お香が焚かれていてちょっと線香臭いのが、神聖な場所感を演出している。
奥が二段のひな壇になっていて、一番上に玉座が置かれていた。
無駄に大きい背もたれとひじ掛けに、見事な透かし彫りが施された、逸品だ。
会場の中央に敷かれている帯状の絨毯の真ん中で、俺は女王様の登場を待っていた。
膝まずく必要はないそうだ。
俺の両側には、衛兵と国の重鎮や官僚達が並ぶ。
現在、ひな壇には三人の男性が立っていた。
向かって、玉座の右側にデルファン宰相様。
中央段の左端には、上品な服装のシュッとした感じのイケメン。
メガネをかけていて実に賢そうである。
その反対端で武官がビシッと背筋をのばしている。
エルフとは思えないほどの筋骨隆々なマッチョマンだ。
豪華だがいたるところに疵のついた鎧姿。
これは強い! 確信!
俺の両サイド後方にいる、お偉いさん達のヒソヒソ声が耳に届く。
虚穴人の容姿に対して批判的なご様子だ。
言霊の指輪 のおかげで現地語が聞き取れちゃうんだっつーの!
人を見た目で判断しちゃいけないんだぞっ!!
「これより、ナヴィア国女王 エルフィア・リ・テイル・エル・デナス・リョースアールバル・エルナヴィア陛下と、虚穴人たる草太・田畑殿の謁見を執り行う」
宰相様がスラスラ宣言する。
よく舌を噛まないもんだ、俺だったら口内が血だらけになってる。
控えていた侍従さんが、ひな壇横の重そうな扉を開けた。
ワクワク!
ご尊顔を拝見するのが超楽しみ~!
ゆっくりと王族方が入場してくる。
先頭を歩く絢爛な服装をしている女性が女王様に違いない。
金銀の糸で彩られた太い帯と長い袖がポイントの、和洋折衷デザインのドレス姿だ。
複雑に結い上げた紺色の髪には、重そうな髪飾りが何本も挿されている。
長い睫毛、切れ長の瞳、濡れたように艶やかで妖艶な唇。
クールビューティー・フェイスだ。
白く長い脚が、深いスリットの入ったロングスカートからチラチラとのぞく。
全身から大人の色気ってやつを立ち昇らせている。
そして――
ある特徴が俺の目線を釘付にした。
そう…… 女王様がしずしずと歩いているにも関わらず。
大きく空いた胸元からのぞく……オッパ……もとい!
母性が!!!
二つの母性が上下に揺れているのだっ! それはもうタユンタユンしているのだ!
まさに今すぐにでもこぼれ落ちそうなのだ!!
これはもはや呼び捨てにして良いモノではない! 敬意を持って呼称しよう!
母性様とお呼びすべきだよな! なんせ女王様の持ち物だしな!
さっそく俺は小声で呟いた―― 「母性様……でけえ……!」




