第3話 草太、望まぬスキルを得てしまう。
どうも草太です。
俺の頭部は今、生い茂った草地にズッポリめり込んでます。
つまり、ドリルアホール・パイルドライバーを決められた人のポーズで、逆立ちしてます。
天に向かって開いている足の間に、脱げたカーゴパンツが運よく舞い降りたおかげで、かろうじて全尻状態(フルチンとも言う)をまぬがれております。
草太の草太が露出しないように、片手でジーンズを押さえながら、慎重に体勢を直して立ち上がる。
(うをっと――!)
エルフのモブフ君とコピフちゃんが、こちらへ狙いを定めて弓に矢をつがえている。
鬼の形相である。なんで?
「二人とも落ち着きなさい! 弓を納めるのです」
センターに立つ、超絶美少女銀髪エルフちゃんの良く通る声が響く。
「し、しかしこの男、セラフィー様に対してと、とんでもない不敬を!」
「そうです!断じて許せません!万死に値します!!」
とモブフ君とコピフちゃん。
「彼は虚穴から落ちたばかりで、混乱しているのです。
それに、三大陸国家群の盟約で虚穴人は保護する決まりですよ」
かなり不満そうではあるが、二人は渋々彼女の言葉にしたがい弓を降ろした。
俺をにらんだままだ。何か事あれば射抜いてやる、という雰囲気がにじみ出ている。
銀髪美少女ちゃんが数歩前に出る。
「私はセラフィー」
更に胸を張って、続ける。
「エルフ種の国。ナヴィア王国の王孫。
セラフィー・テイル・エル・デナス・リョースアールバル・エルナヴィアである!」
お、おう、舌を噛みそうな長い名前が来た。
セラフィーちゃんてことで良いんだよね?
王孫って事は、お姫様の一人ってことか……やっぱり、やんごとなき人物だったか。
俺も自己紹介しなきゃだな。
「俺はこの世界でBIGになる男!田畑草太だ、草太と呼んでくれ。
ヨロシクね! セラフィーちゃん!」
「きっ、きさまーっ! 恐れ多くも、セ、セラフィー様にち、ち、ち、ちゃん付けするとはあ!!」
「姫様に対して馴れ馴れしいにも程があります!!」
また二人が弓を構えようとする。
「良いのだ! 草太殿はこちらの世界の慣習を知らぬのだからな」
お姫様が片手を上げて二人を制した後、その指をあご先に当て唇をほころばせる。
「フフ……生まれて初めて、ちゃん付けで呼ばれたが……
案外悪くはない……庶民的で親し気な感じが実に新鮮だ。
響きに抑揚があるのも、なかなか良いな……」
銀髪美少女が小首をかしげるという、破壊力抜群の仕草で感想をのたまった後。
ビシッと宣言した!
「よし! 公式の場以外でなら、草太殿には私を“ちゃん付け”で呼称する事を許可する!」
「そ、そんな……セ、セラフィー様っ!」
「い、いけませんっ! その様な軽はずみなお約束は!」
お供の二人が、めっちゃ焦ってる。
「王族が一度口にした言葉だ、むやみに訂正はできん!
許せ二人とも」
このお姫様、かなりフレンドリーな御方のようだ。
それに俺は彼女のダーリンなので、ちゃん付けを許すのは当然っちゃ当然か。
彼女が胸に手を当てながら瞳をふせる。
「先ほど草太殿に風魔法を繰り出したことを謝罪する。
すまなかった。
突然、凄い勢いで抱き付こうとしてきたので、思わず放ってしまったのだ」
なるほど、俺の動きが機敏すぎて驚かせてしまったのか!
急いては事をし損ずる、とはよく言ったものだ。
まずは、草太の草太を明らかにしないよう、100%完璧な動作で腰にジーンズを巻くと、今度はゆっくりと彼女を抱擁すべく、両手を広げて近づいた。
「ちゅ~~っ」
『風撃』
彼女の魔法で三たび、バヒューンと飛ばされました!
「なんでやねん! セラフィーちゃんっ!」
思わずエセ関西弁で突っ込む。
「ダーリンに魔法ぶっぱなしたらアカンやろっ!!」
自分の指にはめられた指輪を指して文句を垂れた。
「草太殿は、さきほどから何か勘違いをしているようだが、それは結婚や婚約指輪の類ではないぞ」
ジト目である! 超絶美少女に半眼で見つめられておる。
なんか背中がゾクゾクする、俺の中で新しい何かが目覚めちゃいそうである。
「それは“言霊の指輪”。
指輪をはめた者が、三大陸内国家標準語を理解し、話せるようになる魔道具だ」
なんと、魔道具ですと!
そういや、指輪をはめられた時から言葉が理解できた。
俺は今異世界言語を話しているのか?
日本語を話しているようにしか感じないんだけど!
スゲーな魔道具テクノロジー。
つまりこの指輪は――
未来の猫型ロボットがポケットから出す。
翻訳ができる、こんにゃく的な、ほんやく指輪であって、
こんやく指輪ではないと……
惜しい! 一文字違いであった。
ま、まあ俺だって薄々は感づいていたのさ……
いくら異世界とはいえ、突然、超絶美少女ちゃんに一目惚れされる展開なんて、さすがに都合が良すぎるし。
そのね、場をね……。
そう場をなごませようと思って、ピエロを演じただけなのさ……
あ、目にゴミが……視界がにじんじゃう……。
周りから見えないよう、茂みの中で下半身の装いを整えた後。
俺の身に起こったことについてレクチャーを受けた。
その内容を、異世界小説できたえた文才をもって文学的表現で綴ってみる。
1,俺をこの異世界に運んだ穴は『虚穴』と呼ばれている。
2,これは超自然現象であり召喚魔法の類ではない。
3,この世界で十数年に一度の割合で虚穴は発生し、その時間や場所はランダムであるが、数時間前から発生の徴候が表れる。
4,虚穴によって運ばれた人は『虚穴人』と呼ばれる。
5,『虚穴人』の中でも、元の世界の進んだ知識や技術を持つ者は『虚穴の賢者』と呼ばれている。
6,『虚穴の賢者』達は、こちらの世界に多大なる発展と恩恵をもたらしており、死後も敬われている。
7,特に知識や技術の無い『虚穴人』でも、恩義ある『虚穴の賢者』達の同郷であるため、国の客人として鄭重に扱うよう、全国家間で盟約されている。
8,世界には複数の人属の国家があり、ここはエルフ種の国、ナヴィア王国の国内である。
9,姫様一行は虚穴発生の徴候が現れたとの、国民からの報告を受け、待ち構えていた。
いかがだろうか? あえて文学表現とは真逆の、箇条書きにすることにより、いままでにない新たな文章表現の可能性を追及したのだ。
決して、面白みもない設定を、会話やらなんやらを駆使して長々と書くのが面倒くさかった訳ではないのだ。
俺は改めて姿勢を正すと真剣な表情で、ファンタジー世界で無双するために最も重要な事を三人のエルフに問うた。
「俺も魔法が使えるようになるのだろうか?」
セラフィーちゃんが答えてくれる。
「魔法は鍛錬を積めば誰でも行使できるようになる―― と言われている」
おおっ! 素晴らしい、やったぜ!! 心のなかで、ガッツポーズ。
「ただし……すぐにとはいかぬ」
お姫様が手のひらを胸元で上に向け――『水玉』とつぶやく。
手から水が螺旋状に吹き出し、一瞬でスイカ大のボールになった。
完全な球体で水晶玉のように見える。
「魔法の才に長けた我らエルフ種と違い、草太殿のような人種の場合は時間が必要だ。
感性が鋭敏な幼少期から鍛錬をして、大気に満ちる魔素を感じ取り、体内に集積できるようになるまで3年」
セラフィーちゃんの手のひらに乗った水玉が揺れる。
「魔素を魔力に変え、この様な初級魔法を発動できるようになるには、さらに3年。計6年はかかる」
彼女が透明なスイカにフッと息を吹きかけた。
たちまち霧散し白いもやとなって消滅した。
「草太殿はすでに歳が経っている、魔素、魔力、魔法の感覚をつかむのに、最低でもその5倍の30年以上はかかるであろうな」
「はあっ? 初級魔法で30年!? わし、おっさんに、なっとるやないかーいっ!!!」
思わず、またエセ関西弁で突っ込んでしまう。
「そ、それ以外に別の方法。もう少し手っ取り早くチャチャっと、魔法を使えるようになる術はないの?」
「そうだな……生まれもって魔法関連のスキルを持っている場合は、遥かに早く、数日で魔法行使できるようになるが……人種だとそのようなスキルは稀であろうな」
と難しい顔のセラフィーちゃん。
スキル!! そうだ、スキルだよ! スキル!! 異世界名物チートスキル!
別に魔法関連でなくても構わない、要は無双できれば良いのだ。
両手を近代兵器に改造できるような、ぶっ壊れ能力を持っていればいいのだ。
知りたいっ! 今すぐ自分のスキルを!
「あるよね? スキルを確認する方法! あるんでしょっ! ないとは言わせないぜ! 方法プリーズ、セラフィーちゃん! ティーチング、ミー、クイック、クイック! ハッ、ハッ」
今か今かと、ボールが投げられるのを待つ忠犬のような気分で彼女の回答を期待する。
あ、翡翠色の瞳がまたジト目です……ゾクゾクします! ありがとうございます!
セラフィーちゃんは軽く溜息をついた後、腰のベルトに付いているポーチから、銀の指輪を取り出した。
「結婚指輪ではないからな!」
と念を押し、
「装着した者が心に念じることで、自分のスキルや能力を知ることができる魔道具――“真価の指輪”だ」
言いながら指輪をはじいた。
『風よ……』
彼女の人差し指が左右に動くと、空中の指輪が連動したように動く。
指輪が急降下して地面すれすれに飛んで来たかと思うと、フワッと風が噴き、下げられた俺の右手の指にスルリとはまった。
「フフン」と、美少女ちゃんがドヤ顔である。
くびれた腰に両手を当て、胸とあごを反り返らせてフンスカしている。
魔法の事が分からない俺でも、繊細にコントロールする技に長けているのは理解できた。
派手な風魔法より技術的には難易度が高いに違いない。
そして当然のごとくドヤ顔もめっちゃ可愛い。
彼女は両手の人差し指を鼻の穴に突っ込んで、ベロと白目を全開にしたアホ顔をしても可愛いんじゃなかろうか? いずれは検証したいものだ。
死ぬまで一度は見てみたい・セラフィー・アホ顔してるとこ♪
俺は 真価の指輪 に念をおくる。
「スキル~~能力~~、解れ~解れ~~~解ってちょうだいっ!」
脳裏に言葉のような文字のようなイメージが浮かんだ………
――【植物おせわ係】――
……浮かんだイメージはそれだけだった……。
なんだよこれ!? スキルだよね?
小学校の【兎の餌やり係】とか【水槽の水換え係】とか【○○君のお世話係】じゃないんだからさ。
う~む、解らん。恐る恐る現地人三人に聞いてみる。
「あの~、【植物おせわ係】って浮かんだんですけど……これって、どんなスキルなのか解ります?」
「フム、まったく聞いた事のないスキルだな…二人は知っているか?」
セラフィーちゃんがお供の二人に尋ねた。
モブフ君は首をブンブンと横にふり、コピフちゃんが困り顔で答えた。
「虚穴人は、こちらの世界の住人には無い、変わったスキルを持つ者が多いと文献にありました。
憶測ですが、特殊スキルか固有スキルの類だと思われ、我々では解りかねます」
コピフちゃんの回答を聞いたセラフィーちゃん。
「固有スキル……【植物おせわ係】か……名前から推察して、優秀な能力そうではあるな」
おおっ、お姫様の評価は高い! これは期待が持てるのか!?
「言葉の感じからするとそう………」
腕を組み、眉間にしわを寄せ、しばし考え込むセラフィーちゃん。
そして答えを出した――
「うむ!農業にピッタリのスキルだな!!」
「! なんでやね~~んっ!!!」
俺は三回目のエセ関西弁突っ込みをしたのだった。
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