↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/39

第35話 王族報告会議と陛下の決断

エルフの国、ナヴィア王国の居住区。

中心地である丘の上、そびえ立つ神樹の枝葉から木漏れ日が射し、宮廷の屋根に揺れる。

その屋根の下、長机と椅子が置かれた会議室の窓とカーテンは閉め切られ、明かりの魔道具が室内にいる皆を照らしていた。


会議室には今現在、国内にいる王族が集まっていた。

宰相が神樹に関する報告をする中、他の者は押し黙り、難しい表情で聞き入っている。



防衛兵団の長であるバルグは、セラフィー姫の父として末席に座っている。

大柄なバルグは若干窮屈な心持ちで、他のメンバーを見渡す。


長机上座の二席は、エルフィア女王陛下と、王夫であるドルファン宰相。

左に王位継承権一位のリオーネラ王女。その娘であるルナーラ姫。

右は王女の夫である、ロンガス文官長。 

そして今は亡きソフィーリア王女の娘、セラフィー姫が座る。

バルグは娘の隣だ。


リオーネラ王女の第二子であるミーリア姫は、まだ幼く会議には出席していない。


その場にはもう二人、フード付きのマントを深くかぶり、立ったまま控える者がいた。

細身の肩幅と僅かに見える口元から、二人とも女性であることは分かる。

一人は背が低く、一人は長身で、知らない者が見たら親子と思うかもしれない。


二人は王族ではない。

宮廷内で「神樹番《しんじゅばん》」と呼ばれる者達の一員だ。

表向きは根元の掃除など、神樹の世話をする役職だが、

その実は王家直属の隠密組織であり、王家以外で神樹が植物魔物だと知る者達である。


神樹番の主な任務は二つ。

他国の内情を探り報告することと、神樹と同じ植物魔物を探し見つけることだ。


会議室には、立ち上がり、事の経緯を説明しているドルファン宰相の声が響く。


「つまり虚穴人《きょけつびと》、草太殿《そうたどの》の持つスキルにより――」


バルグはセラフィー姫のこともあり、陛下から昨夜のうちに、おおよそのことを聞かされていた。

神樹様の願いを叶えるために、セラフィー姫自ら探索に赴く決意をしたとのこと。

王族の義務を第一とする、姫らしい決断と言えた。

正直バルグは反対であるが……。

王位継承4位の資格を持つセラフィー姫の位階は、バルグより上である。

父親といえど、成人を迎えた姫に意見具申は出来ても、命令は出来ない。


問題は、陛下がセラフィー姫と虚穴人の草太殿が、連れ立って探索するよう勧めたことだ。


(陛下はいったい何をお考えなのか?) 


バルグはエルフィア女王の真意を測りかねていた。

それに以前。セラフィー姫が虚穴人と、過度に気軽な接し方をしていた様子も見ている。

父親として、そのことも気がかりであった。



「――以上の経緯となっている。

なお神樹様が子孫を残すために、求めている仲間の花。

その花を略式として『神樹類花《しんじゅるいか》』と呼称する」


ドルファン宰相が事の経緯を説明し終え、着席する。

先に、厳しい表情のリオーネラ王女が口を開いた。


「外海の先、未知の世界に、神樹様のお仲間が生息していると……

神樹類花を入手するには、まずこの世界の裏側に渡る術を、見つけねばならないとは……」


続いてその夫ロンガス文官長。

メガネにかかった前髪をかき上げ、怪訝そうに歪めた眉を露わにする。


「しかし虚穴人の言うことは本当に信用して良いのですか? 

彼しか神樹様の言葉が聞けない以上、検証のしようがない。

全くの、でたらめということも有り得ますが。

虚穴人自身が神樹類花を探すと言っているようですが、彼には何の利益もない。

探索費用を要求している辺り、どうも怪しい」


エルフィア陛下が真っすぐ前を見据え、明確に断言する。


「虚穴人の世話役である、セラフィー姫から受けた報告と、わらわが直接会った印象から、草太殿が信用に足る人物だと思うておる。

我が国の最長老であるササリナ先生も “草太殿は稀に見る逸材だと” 太鼓判を押しておった」


「なんと……!」

「最長老が……!」


陛下の言葉に会議室内がざわつく。


一番驚いたのはバルグであった。

なぜなら自分が新兵の時、ササリナ女史から宣言されたのだ。

「バルグ君! 君は正に漢の中の漢! きっと将来は間違いなく大成すると断言するわ!」――と。

ササリナ女史の人を見る先見の明は、自らをもって証明している。


ざわめきが落ち着くと、陛下が続ける。


「皆も知っての通り、居住区内に魔物が侵入してくる割合が増えておる。

神樹様の発する霊力が衰えている徴候は確かにあるのじゃ。

そして今この時期に、植物に直接作用する魔法系統スキルを持つ虚穴人が、我が国に落ちてきた。

わらわは神樹様の大いなる意志を感じるのじゃ」

  

女王陛下が全員をゆっくりと見渡す。


「今後の方針を申し渡す! 虚穴人、草太殿には先ほど了解を得た」


手に持つ扇子を、バルグの隣に座る娘に向ける。


「セラフィー姫」


その言葉に姫が起立した。


「はい! 陛下!」


「虚穴人、草太殿を伴い神樹類花の捜索をせよ!

なお、他国に我が国の情勢を知られぬため、隠密行動とする。

草太殿には、表向きは世界を見聞する旅の虚穴人になってもらう。

そなたは身分を隠し、虚穴人の案内役を演じるのじゃ」


セラフィー姫は拳を胸に当てた。


「承知いたしました! 陛下」


続いてエルフィア女王は、扇子をマントを被った二人に向けた。


「本日より神樹類花の探索終了まで、神樹番をセラフィー姫の指揮下におく!

頭領よ、良いな?」


それを聞き、小柄な女性が一歩前に出る。


「女王陛下の仰せのままに」


少女に似た体型とは裏腹に、女性にしては低いドスの効いた声質だ。

頭領が続ける。


「我の隣に控えた者、名は『アカエ』。

神樹番若手随一の手練れにございます。

我ら神樹番との繋ぎとして、セラフィー姫様と同行させとうございます」


長身な女性が片膝をつき、マントのフードを下ろし素顔をさらした。

神樹番の証である、エルフ耳の半分を覆うカバーのような耳飾りが露わになる。

赤色と黒色が混じった髪をポニーテールにした、美しい顔が表れた。

やや釣り目がちで切れ長の瞳が精悍《せいたん》な印象を与えていた。


「アカエにございます! 神樹番の末席とはいえ、この身に過ぎたる大任を拝命し、恐悦至極《きょうえつしごく》に存じます。ここに、不退転《ふたいてん》の覚悟をもって、セラフィー姫様へと全身全霊《ぜんしぜんれい》を賭《しょ》してお仕えすること、天地万象《てんちばんしょう》に誓《ちか》い申し上げます!」


セラフィー姫がアカエに穏やかな声を掛ける。


「まあ、そう大仰《おおぎょう》に構えるな。共に探索をするのだ、私とは友のように気楽に接して欲しい。よろしく頼むぞ、アカエ」


「は、ははぁ~~~~っ! 自分《じぶん》如きになんとお優しいお言葉!

お心遣いに感激至極《かんげきしごく》にございます! セラフィー姫様のご意向に沿うべく、このアカエ、以後精進し、必ずやご期待に応える所存!」


アカエの大仰な返事を聞き、セラフィー姫は困り顔で頷き、着席した。


バルグはそれらの様子を見ながら、今朝行われた模擬戦の様子を思い浮かべていた。

虚穴人の印象は、地味な黒髪の小柄な若者。


剣術はお粗末そのもの。当然である、彼は戦闘訓練など受けたことがないのだ。

あの蔓《つる》を操る能力も攻撃向きではない。どちらかと言えば拠点防御《きょてんぼうぎょ》向きだ。


それでもなお、ハンデ付きとはいえ、セラフィー姫に勝利したのだ。

俊敏な身体能力、観察眼と機転、戦いにおける状況判断。

戦闘センスはバルグも認めざるを得ない。


それに戦闘後の態度も印象的だ。

勝利したにもかかわらず、全く喜んでいなかった。

むしろ己を戒《いまし》めているようであった。

何か大きな目標を持っている。あくなき向上心を感じたのだ。


着席した姫がバルグに顔を寄せ、小声で注意した。


「父上、このような場で口元をほころばせるのは、よろしくないかと……」


それを聞き、バルグは自分の口角が上がっていたことに気付いた。

軽く咳払いして、表情を引き締める。


「ンンッ、すまぬ」


あまり認めたくはないが、あの小柄な男を気に入り始めているらしい。

向上心のある若造は嫌いではない。


先刻、陛下から娘の婿《むこ》選定に言及されたことが頭をよぎる。

国民から、ナヴィア国の宝石とまで謳われる我が娘を、横目でうかがう。


(セラフィー姫とあの若造では、どう考えても釣り合わんな!)


嫌いでないが、姫にふさわしい男かどうかは、まったくもって別である。


(エルフの寿命は長い、私が認める男が現れるまで慌てず、じ~っくり待てば良いのだ!)


と心中に断固たる意志を刻むバルグであった。


お読みいただきありがとうございます!

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。